「アニヤ・ハインドマーチ」コラボで混雑、行列、転売 なぜユニクロは有名ブランドに選ばれ続けるのか(5/5 ページ)

» 2023年12月25日 05時00分 公開
[岩崎剛幸ITmedia]
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ブランドには3種類が存在 コラボはその「違い」を生かせるか

 しかし、ここまでの説明だけでは、今回のコラボの大成功を説明するのに不十分です。より理解するには、下記の「ファッションブランドピラミッド」を理解する必要があります。ファッション市場は大きく分けて、3つの層で構成されています。

出所:岩崎剛幸『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』秀和システム、23年

 最も上にあるのが「ラグジュアリーゾーン」、いわゆる高価格帯中心のハイブランドです。真ん中にあるのが「トレンドゾーン」。別名「百貨店ブランド」とも呼ばれ、セレクトショップなどもここに入ります。

 最下層にあるのが「マス・ボリュームゾーン」。ユニクロや無印良品などはここに位置します。世の中のファッション市場を見ると、昨今はトレンドゾーンが縮小し、マス・ボリュームゾーンが膨らみました。今勢いがあるのは、ユニクロが位置するこのゾーンです。

 一方、アニヤ・ハインドマーチはラグジュアリーブランドに位置します。通常なら数十万円払わないといけないブランドが、アイテムこそ異なりますが数千円で手に入る。この価格ギャップが大きければ大きいほど、消費者の購買意欲は刺激されます。価格差が価値になるのです。さらに、通常はないアイテムだったことで希少性が出ました。今回はこの価格差と、アイテムの希少性が圧倒的な成功につながりました。

 ラグジュアリーゾーンとトレンドゾーンのコラボでは、価格ギャップは生まれません。つまり、意外性がありません。ラグジュアリーブランドとしての価値を落とさず、かつ新たな顧客層を効率良く開拓したいアニヤ・ハインドマーチとしては、勢いがあり販売力もあり、かつ世界に出店網を広げてブランド価値を向上させているマス・ボリュームゾーンのユニクロならば本気のコラボ商品開発を行えると判断したのです。

11月23日付のユニクロチラシ(出所:ユニクロ公式Webサイト)

チャレンジの放棄こそ、ブランドのリスクになり得る

 かつて08年にコム・デ・ギャルソンが、H&Mとのコラボラインを発売しました。「ギャルソンがH&Mと組むの?」と、当時の業界では大変な話題となりました。まさに価格ギャップのある組み合わせです。「そんな低価格ブランドと組む必要があるの? ブランド価値が下がるのでは?」という声も多く聞かれました。当時はファストファッションブランドが次々と日本に上陸し勢いが出ていたタイミングでもあり、逆に有名ブランドの売れ行きが心配され始めた時期。そんな中でH&M原宿店オープンに合わせて販売したコラボは大成功を収めます。若年層に、ギャルソンのブランド価値を伝えることに成功しました。

 現在ユニクロと組んでいる各ブランドは、自社のブランド価値が棄損するという発想は全く持っていないでしょう。むしろ各ブランドは「こんな世界的な企業とコラボできた」ということに大きな価値を感じているはずです。今やラグジュアリーブランドもただ黙って来店する客を待っているだけでは売り上げは上がりませんし、ブランドを持続させることも難しい時代です。新たなチャレンジをしない方がブランド価値を棄損させてしまうのです。

 その点で、ユニクロとのコラボは新たな時代における小売りのブランド作りの見本であり、今後成長していく企業が取り入れるべき重要な戦略ともいえるでしょう。ただし、全てのコラボが成功するわけではありません。コラボによって双方がブランド価値を上げるためには単発実施ではなく、長期的、または定期的に実施し、その相乗効果について検証をする必要があります。24年に向けて、皆さんもコラボの価値について自社で考えてみてはどうでしょう。市場縮小を嘆く前にコラボで閉塞感を打開しましょう。

著者プロフィール

岩崎 剛幸(いわさき たけゆき)

ムガマエ株式会社 代表取締役社長/経営コンサルタント

1969年、静岡市生まれ。船井総合研究所にて28年間、上席コンサルタントとして従事したのち、同社創業。流通小売・サービス業界のコンサルティングのスペシャリスト。「面白い会社をつくる」をコンセプトに各業界でNo.1の成長率を誇る新業態店や専門店を数多く輩出させている。街歩きと店舗視察による消費トレンド分析と予測に定評があり、最近ではテレビ、ラジオ、新聞、雑誌でのコメンテーターとしての出演も数多い。直近では著書『図解入門業界研究 最新 アパレル業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本[第5版]』を刊行した。

岩崎剛幸の変転自在の仕事術


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