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糸井重里が「ほぼ日の株主総会」で語ったこと 採用に1000人が“殺到”コンテンツが湧き出る会社に

» 2023年12月27日 06時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 累計販売部数が1000万部を超えた『ほぼ日手帳』などコンテンツの企画、編集、制作、販売を手掛けるほぼ日は、2023年11月26日に株主総会を開いた。過去最高となる68億円の売上高を出して増収増益となった一方、株主からは株価が上がってないことについて質問が出たことを【糸井重里が語る「ほぼ日手帳の海外売上33%増のワケ」 売上高は過去最高】で伝えた。

 ほぼ日では新たな採用戦略「ほぼ日の大開拓採用」を打ち出し、1000人単位の応募があったという。

 今回は、この株主総会で代表取締役社長の糸井重里氏が語った、ほぼ日の今後の展望についてお伝えする。

ほぼ日は過去最高となる68億円の売上高を出して増収増益に(左から小泉絢子取締役、糸井社長、鈴木基男取締役)

海外売上増の背景は? 糸井氏「そのための組織作りや活動をしてきた」

 ほぼ日の株主総会では、事業報告がされたあとに、糸井氏が株主に対して今期と来期の方針についてメッセージを発信することが恒例となっている。

 ほぼ日はコピーライターの糸井氏が1979年に東京糸井重里事務所として設立したのが始まりだ。98年6月にWebサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』を創刊し、現在まで毎日更新を続けている。インタビューやコラム、ライブ中継の配信など、あらゆるコンテンツを無料で配信している。

 『ほぼ日刊イトイ新聞』のオリジナルグッズとして誕生したのが、『ほぼ日手帳』だった。発売された2002年版は、Webサイトで販売したもので、1万2000部の発行部数にすぎなかった。

 それが、ユーザーの声を聞きながら改良を繰り返すとともに、05年版からは生活雑貨専門店のロフトに納入されるようになり、爆発的に部数を伸ばす。23年版は100以上の国と地域で82万部を売り上げた。さらに、23年9月から24年版の販売が始まったことで、累計販売部数が1000万部を突破した。

 ほぼ日の売上高は『ほぼ日手帳』の販売が大きなウェイトを占めている。糸井氏は「『ほぼ日手帳』を扱う小売業としての仕事が、現状では業績のほとんどを占めています」と述べた上で、この1年間に取り組んできたことを次のように話した。

 「この場でぜひお話しておきたいのは、22年も言ったんですけれども、小売業で『ほぼ日手帳』は売れているから良かったね、とそのまま喜んでいるつもりはございません。

 『ほぼ日手帳』は僕らが考えてきたコンテンツの1つです。そのコンテンツが世界中の人たちに喜ばれて、日本でも一時『手帳ブームではないか』と言われたけれど、今なお売り上げを上げて、使う人を増やしていることは、このコンテンツの存在が、ある力を持ったということです」

株主ミーティングの会場に展示された「ほぼ日手帳2024」のラインアップ

 ほぼ日の業績で23年8月期のトピックスは、『ほぼ日手帳』の海外での売上高が前期比33.1%と大幅に増加したことだろう。海外売上高の構成比率は47.7%と、前期比で1.7ポイント増加した。この背景を糸井氏は次のように解説した。

 「海外で業績が上がっていることについて、今までなんとなく、あえて言えば文学的に『なぜか売れているんですよ』『特に何をやったわけでもないので、あとは伸びしろばかりです』とお話をしてきましたが、実は海外の業績を上げるための下ごしらえの部分は、水面下でたくさん動いていました。

 買いやすくなること。知らされること。国ごとの便利さ。通貨や言語の問題。そういったことを解決しながらやってきた結果が、今の伸びにつながっているということです。

 『なんとなく伸びしろばかりです』と言ってきたことですけれども、やっとそのための(伸ばすための)人が増え仕事が増えていき、それが力として見えてきたことが、小売業としての海外展開がうまくいっていますという話の正体です」

 その上で糸井氏は、今後の目標を次のように述べた。

 「これからも手帳頑張れ、という会社のままで皆さんが期待していらっしゃるとは僕も思いませんし、自分でもよく言うのは、コンテンツが泉のように湧き出る会社になりたいということです。そのための組織作りや活動をしてきているつもりです」

海外売上高の構成比率は47.7%

ほぼ日だからできる『ほぼ日の學校』の強み

 ほぼ日がさらに伸びていく体制を強化していくためのコンテンツの一つに、糸井氏は『ほぼ日の學校』を挙げた。糸井氏やほぼ日のネットワークを生かして、各界で活躍する300人以上のインタビューなどを月額680円で動画視聴できるサービスを提供している。糸井氏は『ほぼ日の學校』によって、同社にしか作ることができないネットワークを広げていると説明した。

 「本当にとんでもない業績の方、とんでもない人気者が『ほぼ日の學校』というメディアに協力してくださっています。ほぼ日が『ほぼ日刊イトイ新聞』のWebサイトだけを持っている、あるいは、ある種の商品を売り出しているだけではお付き合いできなかった数々の新しいネットワークが、僕らが開発した新しいメディアによって作られ始めています。まだまだ広がっていくはずです。

 始まってそんなに月日も経っていませんから、なかなか目立っては見えませんけども、ほぼ日がネットワークビジネスであり、コンテンツを生み出し、仕入れ、広げていくことがわれわれの仕事の中心だとすれば『ほぼ日の學校』がこの2、3年の間にやりかけていること、やり続けていることは、とてつもないネットワークを広げていると思ってくださっていいと思います。

 金融的に言えば、まだ皆さんがお喜びになるような結果につながっていませんけれども、自分たちがここから何ができるのだろうということの、塊ができつつあります」

株主総会後に行われたほぼ日の社員への質問会

「ほぼ日の大開拓採用」に1000人が応募

 コンテンツビジネスをさらに拡大していくために、ほぼ日では新たな採用戦略も打ち出している。それが「ほぼ日の大開拓採用」だ。新しい取り組みを開拓するための採用で、23年3月まで募集した。糸井氏は採用の狙いをこう語る。

 「今まであった仕事の担当者がいなくなったから穴埋めをするとか、足りないからもっと人に入ってほしいのではなく、新しい開拓をするための人を募集しました。1000人単位の人がやってきてくれました。今、人手の募集は大変な時期ですけれども、ほぼ日と新しいことをやりたい人が、本当に心から来てくれます。そこでの採用が、いまだかつてない人数で、素晴らしい方々が仲間になってくれました。

 この方々が増えたおかげでできていることが、だんだんと目に見えてきています。例えば、今日の株主総会も、外部のイベント会社を入れているわけではありません。生活のたのしみ展でも、どこに外注しているわけでもなく、自分たちでできています。

 ここで得たコミュニケーションの能力であるとか、何を知り得て、何をサービスにしていくのかが、それぞれの職種の領域を越えて、ほぼ日のメンバーとしてできる組織が、いよいよ力強く育ってきたという実感があります」

 糸井氏は、ほぼ日のネットワークがさらに強固になり、そのネットワークを活用して「もっとおもしろい方向に漕ぎ出すための人材」が増えてきたと強調。今後も新たなコンテンツを開発し、拡大していくことに意欲を示した。

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