正直に白状すると、発表当初このロータリーEVのエンジン発電時における燃費を推定したとき、ハイブリッド車としてはあまり高くない燃費性能にいささかガッカリした。それはロータリーエンジンでも定速運転すれば、燃費性能は飛躍的に向上するのでは、という期待値が大きすぎたのだ。
しかし、実際に試乗してロータリーEVの滑らかな走りに感銘を受けた。そして燃費を気にすることの無意味さにも気付かされた。ほとんど燃料を使わないで走行しているのなら、月に1、2回の遠出であれば燃費の差によるガソリン代は、実質的にはわずかなものだ。
電欠によるトラブルや、充電ステーションでの急速充電器の順番待ちなどによって足止めを食うぐらいなら、少々の燃料代など安心料として払ってもいいと思うユーザーは少なくないだろう。
ノルウェーや中国、ドイツといったEV先進国では、すでにEV市場の崩壊が始まっているとも聞く。一時的な現象かもしれないが、政府が強制的にEV推進を図ろうと思っても、結局ユーザーが何を選択するかは、ユーザー自身の判断によって決められるのだ。補助金によって販売が成り立っているようでは、そのビジネスモデルはいずれ破綻することになる。
これからもEVは普及していくだろうが、ゆっくりと時間をかけることが必要だ。ガソリン車よりも歴史が古いEVは、それだけ多くの時間をかけて進化、成長してきたモビリティなのだから。
民間の充電ステーション運営企業も育ちつつある今、これからがEVの普及期だ。政府が本腰を入れて助成を行い、自動車社会を再構築するつもりでさまざまな企業の参入を促す必要がある。ここから時間をかけて電源構成を含めたEVの充電環境を整えていくことが、真のEVの普及へとつながるはずだ。
そういった意味で、自宅で普通充電を行い、出先では急速充電とロータリーによる発電を組み合わせて走り続けることができるロータリーEVは、現時点でのEVにおける「最適解」と言えるのではないだろうか。
BEVでは非常に意欲的なモデルの一つだった「ホンダe」は、2024年1月に生産を終了するという。そのタイミングで発売されるMX-30 ロータリーEVは、非常に対照的な存在だと言えそうだ。今後、このロータリーEVのパワーユニットを他のモデルへも搭載する水平展開を期待したい。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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