「駅弁大会」なぜ人気? 逆風下でも百貨店のキラーコンテンツであり続ける理由宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く(1/4 ページ)

» 2024年01月11日 08時00分 公開
[宮武和多哉ITmedia]

新連載・宮武和多哉の「乗りもの」から読み解く:

乗り物全般ライターの宮武和多哉氏が、「鉄道」「路線バス」「フェリー」などさまざまな乗りもののトレンドを解説する。


 毎年冬になると、百貨店の特設会場などで開催される「駅弁大会」を楽しみにしている、という方も多いだろう。

 普段は現地に行かないと入手できない人気駅弁も、この会期中だけはワンフロアに集結。わずかな距離を歩いて買い回っただけで、なかなか手に入らない駅弁を次から次へと購入できる。毎年のように出店する駅弁業者(調製元)の固定ファンも多く、開店間近の入口前に長い行列ができるのも、毎年のことだ。

 百貨店の駅弁大会のなかでも、京王百貨店新宿店(東京)、阪神百貨店梅田店(大阪)、鶴屋百貨店(熊本)は「3大駅弁大会」として知られている。なかでも知られているのが、1966年から年一回開催されている京王百貨店での駅弁大会「元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」だ。

駅弁 京王百貨店新宿店。毎年冬の駅弁大会が名物だ

 その開催規模たるや「約2週間で30万食を販売」「期間中の売り上げは6億円」「期間中は新宿店の来客数が2〜3割増加」と、京王百貨店の催事(販売イベント)としては最大規模を誇る。各地域の駅弁業者は競って特設会場に実演ブースを構え、販売合戦にしのぎを削ることもあり、熱気あふれる開催中の様子は「駅弁の甲子園」と言われるほどだ。

駅弁 京王百貨店の駅弁大会には、各地からの駅弁が集結する
駅弁 駅弁の実演ブース・実際に調理して、その場で販売する

 各地の駅弁業者(調製元とも)は、鉄道駅を拠点として地域に根を張っており、仙台駅「こばやし」、広島駅「ひろしま駅弁」などのように、駅に限らず広く販路を持っている業者も多い。

 各社ともそれぞれの地域で営業を続ける中、なぜ各地の駅弁業者は駅弁大会に集うのか。そして、駅弁大会の中でも「京王の駅弁大会」はなぜここままでの賑わいを保ち続けているのか、考察してみよう。

駅弁を巡る逆風

 まずは、ここ50年ほどの駅弁業界の推移を見てみよう。業界として、縮小・撤退が続いていることは間違いない。

 業界団体「日本鉄道構内営業中央会」の加盟数も、昭和40年代には約400社以上あったのが、2024年現在では65社(同会Webサイトより)と、全盛期の5分の1近くに。家族間で技術を継承しながら営業してきた店も多く、近年では後継者の育成も各社の課題となっている。

 かつて駅弁と言えば、ホーム上で数人の売り子が待機。到着した列車の窓が開くと、乗客がわれ先に駅弁を買い求める、といった景色がよく見られた。なかでも乗換駅や機関車の付け替えなどで長時間停車する駅はニーズが高く、「かにめし」(北海道・JR函館本線)、「峠の釜めし」(群馬県・JR信越本線)のような有名駅弁も、そういった環境の中で列車の到着ごとに飛ぶように売れていたそうだ。

駅弁 長万部駅の名物駅弁「かにめし」。いまも長万部駅前の「かなや」店舗で販売している(2024年大会での出品なし)

 しかし、列車の高速化・近代化は駅弁への逆風となった。移動時間の短縮によって車内で食事をする機会は減り、停車時間は削減され、空調の導入で列車の窓が開かない……。ホームで駅弁を買い求めることが難しくなってしまったのだ。

 先に述べた中でも「かにめし」は停車時間削減・窓が開かない車両の増加、「峠の釜めし」も新幹線の開通・ローカル線化で、極端な販売数の減少、会社のピンチを経験している。

 さらにコンビニの出店増加などで、駅の外にもライバルが出現。地域によっては、そもそも鉄道利用者が減少してしまった場所もある。こう聞くと、駅弁業界そのものが長らく厳しい立場に置かれてきたことが分かるだろう

駅弁 淡路屋の新商品「LUPIN ZEROひっぱりだこ飯」
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