ここまで、日本人が休みづらい理由を列挙したが、それでも休みは必要なものだ。
国は過労死等防止対策として「2025年までに年次有給休暇の取得率70%以上」という目標を掲げている。労働者の心身の健康のためには適切に休むことが非常に大事だからだ。
企業の利益の面からみても、人手不足の今、病んでしまった人は切り捨てて新しい人を採用すれば良いというわけにはいかない。今いる人に長く働いてもらうために、社員の健康は大きなテーマだ。
また、眼の前の仕事しか見えていない社員ばかりでは、イノベーションは生まれない。仕事を離れてリフレッシュしたり視野を広げたりすることは、企業価値を高めていくためにも必要なのだ。
日本人が罪悪感など抱かずに気持ちよく休めるようになるには、個々の企業における業務改革が必須だ。休んだら周りの人が大変、休み明けの自分が大変、という状況をなくしていくのだ。
特に、各自が進め方やスケジュールを自己裁量で決められる範囲を拡げること(仕事の自律性の向上)と、チーム内で互いにカバーできる関係を作ること(属人性の排除)を、両輪で進めていく必要がある。
そして、「休むのは良いこと、必要なこと」という認識をより浸透させていかなければならない。これは経営者や管理者、労働者はもちろんのこと、消費者にも必要な意識改革だ。適切に休むために、過剰なサービスは「しない/求めない」という双方の合意がないと、気持ちよく休める状況にはならない。
もう一つ、制度改革も提案したい。有給休暇を「なるべく使い切ろう」と考えにくいのは、「いざというときのため」という面もある。
法律では、子どもの病気やけがへの対応、家族の介護のための休暇は、通常の有給休暇とは別に定められている。しかし、自身が病気になったり不慮の事故にあったりしたときは有給休暇を使うしかない。
海外には別途「病気休暇」が定められているところもあり、国内の企業でも21.9%の企業が制度として導入している(令和5年「就労条件総合調査」結果の概況、厚生労働省) 。この「病気休暇」を法定休暇とすることで、有給休暇は病気になったときのためではなくリフレッシュのために使うもの、という考え方ができるようになるのではないだろうか。
このようなさまざまな工夫や後押しによって、日本人が罪悪感なく気持ちよく休めるようになる日がくることを願う。
コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。
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