ニトリ、ニデック、幸楽苑……相次ぐ「創業者の出戻り」 業績が改善しても、手放しに喜べないワケ古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2024年01月26日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「出戻り」にはデメリットも?

 ここまで創業者の出戻りは大きなメリットがあると思われるかもしれないが、裏を返せば「出戻らざるを得ない」状況でもあるといえる。つまり、その会社の業績はある人間の有無で左右されるという属人性が高く、再現性に乏しいと評価される危険性もあるのだ。

 ちまたでは、中小・零細企業の後継者問題が取り沙汰されているが、大企業の経営を引き継ぐ資質を持つ人材を見つけることはそれ以上に困難であるのかもしれない。

 永守氏の復帰を巡っては、結果的に業績は回復しているものの、同時に同氏への強い批判も巻き起こした。関氏の責任を厳しく追及する復帰時のコメントや、後継者育成の不十分さなどがその内容である。

 しかし、ニトリHDはニデックとは異なり、後継者を断罪する形ではなく、ともに手を取りながら創業者が復帰し、難局を乗り越える姿勢をみせたことは特筆すべきだろう。現在の厳しい状況が落ち着き、グローバル化のめどが立てば、再び武田氏以下経営陣がニトリHDを率いる可能性も高く、それがニトリHDの経営の再現性を裏付けることになるだろう。

 ニトリHDの会長の復帰は、大企業における経営の安定と成長のために、経験豊富なリーダーシップがいかに重要かを示している。また、後継者問題を解決するためには、国内外から多様な人材を受け入れ、新たな視点を経営に取り入れることも検討する必要があるかもしれない。

日本企業の役員報酬は安すぎる?

 出入国在留管理庁の統計によれば「経営・管理」ビザを有する外国人数は年々増加している。00年には5694人だった外国人の経営・管理ビザ保有者は23年にはおよそ3万2000人にまで増加しており、高度人材における外国人登用も進んできているように思われる。しかし、1ドル150円に迫る大幅な円安は、外国人の高度人材を日本市場からさらに遠ざけてしまう可能性がある。

 日本企業の役員報酬はもともと世界的な水準でみて少ないことで有名だ。仮に私たちが東証プライム市場に上場する大企業の社長に上り詰めたとしても、年収1億円を超えれば御の字といった感覚だ。デロイト・トーマツ・グループと三井住友信託銀行の調査によれば、売上高1兆円以上の日本企業における社長の役員報酬は、23年の中央値で1億2341万円となっており、前年度比で1割程度増加した。

 かたや、米国の株式指数であるS&P500に属する上場企業社長の役員報酬は、22年の中央値で1480万ドル。日本円で換算して年収22億円近くを受け取っている計算となる。日本の大手企業と米国の大手企業では、ただでさえ中央値における役員報酬に20倍近くの格差があるような状態である。

 仮にこのまま円安が進行していけば、ドル建てで見た日本企業の報酬はさらに低下していくと考えられ、優秀な経営者が日本企業を敬遠しかねない危険性も否定できない。国内外の役員報酬の格差という問題もあって、日本における大手企業は、外国人経営者に高額な報酬をオファーすることもあり、日本の上場企業役員の大半が外国人経営者で占められるような年もある。

 グローバル展開を経験したプロ経営者が参画できる環境が醸成されれば、後継者選びに悩む大企業の創業社長も1億の国内人材からではなく、80億から選択できる余地も生まれる。 GAFAMをはじめとした米国トップ企業の社長にインド系人材が多く登用されていることなども踏まえると、企業の後継者も「日本人」にこだわらない姿勢が抜本的な解決策になるのかもしれない。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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