【炎上対応まとめ】その時、どうしたらよかった? パワハラ、性加害、寄付金着服……企業の対応を振り返る働き方の「今」を知る(2/8 ページ)

» 2024年02月14日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

【1月】集英社編集者による「パワハラ疑惑発言」炎上事件

 23年の年明け早々、大手出版社「集英社」が刊行するマンガ雑誌「月刊マーガレット」編集者のSNS投稿が話題となった。

(これってめちゃ「はあ?」と思われることなんじゃ?と思いながら書いているのですが)例えば、作家さんとネームの打ち合わせをしていて「こう直した方がいいんじゃない?」と僕が提案したとします。後日その作家さんから僕が言った通りに直しただけのネームをもらうとですね、…ガッカリするんです。(元ツイート

 この「担当J」を名乗るアカウントの主は、月刊マーガレットの副編集長。「漫画家にネーム(大まかなコマ割りや台詞など描いた、マンガの下書き)を修正するよう伝えても、自分が言った通りに直しただけだとガッカリする」という内容から始まる連続投稿の主旨は、「クリエイターであれば、自分の創作したキャラクターに対して強い思い入れやこだわりを持っているべきであり、編集者からの提案でも拒絶するくらいのことは必要だ」という、いわば個人的な「編集論」を語ったものであった。

 しかし、この最初の投稿内容が、マンガ家や小説家など、編集者とやりとりをした経験を持っているであろうプロ作家を中心に批判を受け、炎上状態となる。彼らに言わせれば、「明らかに修正すべき問題点があるなど、根拠が明確であり、修正することによって掲載されるのであれば直すが、単に編集者個人の『お気持ち』で勝手にガッカリされたところで、そんなのは知ったことではない」というわけだ。まさに本人の言う通り「はあ?」としか言いようがない。

 また、インターネットとSNSの普及により、従前知る機会がなかった「マンガ家」と「編集者」の関係性も可視化されてきた。もちろん、作家の才能を見極め、開花させた凄腕の編集者がいる一方で、作家から預かった原稿を紛失してしまう編集者や、相性が合わずトラブルになったことで作品をボツにしてしまう編集者など、中には問題のある人物がいることも明らかになりつつある。

 また新人作家にとっては、どれだけ心血を注いで描き上げた作品でも、掲載されなければ収入はゼロである。掲載されるか否かで自身の生活が大きく左右されるという状況の中、大手出版社の編集者から「直せ」と言われれば、たとえ不本意な修正でも対応せざるを得ないこともあろう。

画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ

 一方で、大手出版社の会社員として安定した収入と身分が保証されている編集者は、個人的な編集論を振りかざし、指示通り修正したマンガ家に対して「ガッカリする」とつぶやく。この不均衡なパワーバランスに立脚したパワハラ、モラハラ的な構造が、大きな批判につながった原因であることは想像に難くない。

 炎上が拡大していくに伴い、クリエイター経験を持たない一般の人たちからも「自分の上司にもこんなタイプがいた」「『言われた通りにやれ!』と指示されその通りにしたら、『なぜ言われたことしかできない!?』と怒られた経験を思い出す」など、自らが経験したパワハラと重ね合わせた反響が大きくなっていった。各自のネガティブな思い出とリンクすることで、炎上の火力も増していったものと思われる。

 ちなみに当該投稿は、本稿公開時点である24年2月中旬においても削除されずに掲載されたままだ。すなわち、広く批判を受けたとはいえ、会社にとっても職業倫理的にも問題ではないとの判断によるものであろう。

 業界内では当たり前と認識されていることが、一歩外に出ると非常識と映るケースの代表的な事例であり、われわれにとっても決して対岸の火事ではない。世論の潮流を日々見極めていないと、各々が同様の炎上の業火に炙られるリスクがあると痛感させられた出来事であった。

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