【炎上対応まとめ】その時、どうしたらよかった? パワハラ、性加害、寄付金着服……企業の対応を振り返る働き方の「今」を知る(6/8 ページ)

» 2024年02月14日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

【11月】「保身と隠ぺい」を感じる宝塚歌劇団、阪急電鉄の対応

 阪急電鉄は、阪急阪神東宝グループの中核事業会社であり、わが国の大手私鉄の一つ。主事業はもちろん鉄道運営だが、もう一つの事業の柱が「創遊事業」。その中核をなすのが「宝塚歌劇団」であり、劇団の運営は阪急電鉄が直轄で手掛けている。現理事長も阪急電鉄の執行役員が務めているのだ。

 その宝塚において9月、25歳の現役劇団員が自殺したと報じられた。当該報道がなされた当初は、歌劇団が公演の一部を中止したこともあり、SNS上では他の劇団メンバーを気遣う声や、劇団としてケアを求める声が多く見られた。しかし遺族側の代理人弁護士が記者会見を行い、自殺の原因が劇団内での長時間労働や上級生からの暴言など、パワハラ疑惑による心理的負荷によるものと発表されたことをきっかけに論調は一変。本件が単なる偶発的事故ではなく、宝塚歌劇団という組織自体の労働問題として受け止められた結果、劇団自体や、劇団を運営する阪急電鉄への批判の声が大きくなっていった。

 これを受けた劇団側は11月に記者会見を開き、外部の弁護士による調査チームの報告書を公表。その内容を基に、「いじめやハラスメントは確認できなかった」とする一方、「長時間の活動や上級生からの指導で強い心理的負荷がかかっていた可能性は否定できない」と発表したのだが、この説明には強い非難が集まった。その結果、ネガティブな意味で宝塚ファン以外からも広く注目され、劇団と阪急電鉄の管理監督責任と企業姿勢を問う論調が沸き起こることとなってしまった。

画像提供:ゲッティイメージズ

 ネット炎上と危機管理広報を専門とする筆者から見ても、当該会見はビッグモーター社の不祥事会見をも上回る、保身と隠ぺいの姿勢を強く感じさせるものであった。記者会見実施がメディアに知らされたのは開始直前であり、参加したのは劇団が普段から懇意にしている在阪メディアが中心。劇団側の調査報告は第三者委員会方式ではなく、単一の法律事務所に依頼しており、客観性・公平性に欠ける印象もあった。

 さらに、劇団側の説明にも多くの矛盾がみられた。「劇団員とは業務委託契約」と説明していたが、実質的に過密なスケジュール対応を要求している以上、実態としては雇用契約であり、偽装請負に当たるものと解釈できる。また「(故人に対して)嘘つきとは言っていないが、嘘をついていないか何度も質問した」という上級生の行為は、実質的に「嘘つき」認定も同然であり、それによって心理的負荷がかかっていたのであれば、精神的攻撃にあたるパワハラそのものといえる。さらに業務量の多さは昔から変わらないはずなのに、劇団として把握できていなかったというならば、職場の安全配慮義務違反として管理責任が問われることにもなるだろう。

 劇団側としては、当該会見前に劇団企画室長がメディア取材に対してコメントした「劇団としては“いじめ”という事案があるとは考えていない。加害者も被害者もおりません」との見解と整合性をとる必要があったのかもしれないが、とにかく責任回避と保身の姿勢があからさま過ぎた会見であった。質疑応答場面においては、阪急電鉄執行部の責任にも言及されたものの、電鉄側は宝塚歌劇団のWebサイト上でおざなりな声明を出したに過ぎず、同社のX公式アカウント上では本件に関して一切の言及がなされていない状況だ。

 Xは即効性があるメディアだからこそ、記者会見の通知もできたはずであるし、劇団Webサイトの声明に案内するなど、告知の方法は多々あったはずだ。しかし一切ノーコメントの姿勢は責任回避や隠ぺいの意図があると勘繰られても文句は言えない。結果として、Xアカウントが鉄道沿線イベントの告知などの投稿をする度に、「親会社として、ダンマリですか?」「阪急の連結部門で収益に貢献してるんだから知らないは通らない」などと、この事案にまつわるネガティブな書き込みが相次ぐ不穏な状況となってしまっている。情報の受け手からの理解が得られていない時点で、危機管理として失敗といえよう。

 劇団側は反省の弁として「ルールを見直して改善していく」と述べたが、もし劇団側に本当にいじめやパワハラという認識がないならば、この約束もあやしいものとなるだろう。何しろ、何がいじめでパワハラなのか認識がないわけだから、認識がないところから改善などできるはずがないのだ。どんな伝統やしきたりがあったとしても、ワークルールやハラスメントの基準は共通である。至らない点は真摯に改めていただきたい。

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