トヨタグループ不正 謝罪会見の「創業者は苦労する母を楽にしたかった」話は意味あるのか河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2024年02月09日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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「母をラクにしたい」はずが、人より金を見るように

 豊田会長は記者会見で、創業者の豊田佐吉は「苦労する母親を少しでもラクにしたい」との一心で1890年に「豊田式木製人力織機」を発明し、1895年に豊田商店を創業したと説明しました。

 トヨタグループの原点は、「誰かを思い、学び、技を磨き、モノをつくり、人を笑顔にする。発明への情熱と姿勢」にあると。

 これが「会社アイデンティティ」であり、それを支えるのが、わが社が「大切にすべき有形無形の道具」です。トヨタのそれは「自動車=モノ」や、「現場=技」だった。その創業者の思いが先輩から後輩へ、上司から部下に受け継がれたからこそ、世界のトヨタになれたのでしょう。

 しかし、会社が大きくなればなるほど、もうかればもうかるほど、経営者は「人」より「金」を見るようになり、会社の社会的地位が上がるほど、 社員は「前に進む」ことより「保身」に走ります。

 だからこそ、トップは社員に繰り返し「会社アイデンティティ」を周知し、大切にすべき道具を共有することを忘れてはいけないのです。

 ちなみに、今流行りの「社員エンゲージメント」を高めようとも、どんなに社員の「職務満足度」を向上させようとも、トップが汗をかかない限り、不正を防ぐのは無理。実際、以下の量的調査でも否定されています(リンクアンドモチベーション「『企業不祥事と従業員エンゲージメントの関係』に関する研究」)。

豊田会長はただの「人」になれるか

豊田会長はただの「人」になれるか(提供:ゲッティイメージズ)

 私が知る限り、いい経営をしている会社のトップは現場の「人」と対面し対話する努力をとても大切にします。それはトップがただの「人」として社員と接し、「あなたは大切な人=信頼」というメッセージを社員に送り続ける覚悟です。

 「私自身が責任者として、グループの変革をリードしていく」と断言した豊田会長は、どうやって「あなたは大切な人」というメッセージを送り続けるのか。残念ながら私には分かりませんでした。

 しかし、「トヨタの会長という肩書はその邪魔をします。それを崩しながら、社長時代の14年間で得た仲間たちとともに、一つずつ探っていきたい」との発言に、個人的には大いに期待したいです。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。

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