BM、ダイハツ、豊田織機……組織が悪事に走る根本原因働き方の見取り図(1/3 ページ)

» 2024年02月14日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

 「上司に相談したところでどうせ『何とかしろ』などと言われる雰囲気があった」

 「相談したとしても無駄であると半ば諦めていた」

 エンジンの検査不正が明らかになった豊田自動織機が公開した、200ページを超える調査報告書には、社員のこうした証言が記載されています。

 車両の認証試験で長年、不正を繰り返していたダイハツ工業の社長は、是正命令が出された際に「仕事量を見誤ったかも」と述べたと報じられています。しかし、仕事量を適正にすれば不正を防げるのか? というと「そこじゃないだろう」と首をかしげざるを得ません。

 街路樹に除草剤をまくなどして枯死させ、逮捕者を出したビッグモーターをはじめ、日野自動車や三菱電機……と、有名企業による不祥事が後を絶ちません。

 相談もままならない職場環境では、仕事量を適正化したところで自浄作用など働くはずがありません。不正行為の繰り返しを防ぐには、会社組織に内在する、もっと根本的な原因に目を向ける必要があります。詳しく見ていきましょう。

組織の不正がなくならない根本的な原因とは。写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市出身。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者を経て転職。業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員、広報・マーケティング・経営企画・人事部門等の役員・管理職、調査機関『しゅふJOB総研』所長、厚生労働省委託事業検討会委員等を務める。雇用労働分野に20年以上携わり、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ約50000人の声を調査したレポートは300本を超える。NHK「あさイチ」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等の活動に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


不正の実行犯を4タイプに分けてみると……

 不正が起きた時、当然ながら、不正を実行した社員がいます。その際、不正認識の有無を縦軸、不正実行の背景が自発的か強制的かを横軸にとると、実行犯は以下の4つのタイプに分類できます。

 不正だと認識していたにもかかわらず自発的に実行した者は、不正行為の首謀者です。それに対し、不正だと認識しつつも、誰かに強制されて不正を行った者は共犯者。一方、不正の認識はなかったものの自発的に不正行為を行ってしまった者は、それが不正行為に該当すると認識していなかった未熟者と言えます。また、不正だと認識しないまま強制的に不正に加担させられた者は、むしろ巻き込まれた被害者です。

不正実行犯4タイプ(筆者作成)

 不正自体は許されないことですが、同じ実行犯でも、不正行為と認識していない未熟者と被害者には悪意がありません。また、単に不正を認識していなかっただけであれば、研修などで知識を身につけることで今後は防げるはずです。しかし、豊田自動織機の調査報告書に「相談したとしても無駄」と証言があったように、一連の不正の中には不正を認識していた首謀者と共犯者によって行われていたものがあります。

 不正行為だと知っていたのだから、首謀者と共犯者には少なからず悪意があります。共犯者の場合は無理やり不正に加担させられた被害者である可能性も否定できませんが、不正に加担することで共犯者が享受できるメリットも考慮すると、加害者寄りの側面があることは、以前書いた「ビッグモーター不正 忖度した『中間管理職』は加害者か被害者か?」でも指摘した通りです。

「会社のために不正」歪んだ正義感はなぜ生まれるのか

 では、首謀者と共犯者が悪人だったから不正が起きたのかというと、そうとも限りません。もし、彼らがリベートを受け取るなど、私的な利益を得るために不正行為をしたのであれば、悪意に満ちた個人的な犯罪です。会社は警察に通報するなどの措置をとると思います。しかし、一連の不正行為は私的な利益などではなく、会社組織のあり方自体に起因していると考えられることが問題を根深いものにしています

 豊田自動織機の調査報告書では、不正が行われた根本原因として「企業体質」や「組織風土」が挙げられています。また、ビッグモーターとの密接な関係のもと、自動車保険金不正請求に携わった損保ジャパンの調査報告書でも、原因として社会的使命に対する自覚が乏しいといった「人的要因」、内部統制システムの不備といった「制度的要因」などが挙げられています。

 もちろん、中には不正に携わる際に自身の評価を上げたいといった下心や評価を下げたくないなどの保身が頭をよぎった社員もいたのでしょうが、これらの報告から浮かび上がってくるのは、体質や風土、社員の素養、制度など不正を起こす会社組織の構造的な欠陥です。不正だと認識しながらブレーキをかけられなかった社員は、会社組織で過ごす中で、不正行為を自らが果たすべき役割と認識するようになってしまった可能性があります。

 もし組織の役割としてあえて不正に手を染めたのだとしたら、社員の行いは、会社のために泥をかぶった正義と見なされるのかもしれません。そんな“歪んだ正義感”が生まれる背景に垣間見えるのは、「自己犠牲の精神」と「会社第一主義」の行き過ぎです。

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