マーケティング・シンカ論

「コンタクトセンター」でAI活用が加速 「ヒト」がやるべき業務は残っているのか(2/2 ページ)

» 2024年02月14日 08時00分 公開
[北岡豪史ITmedia]
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ヒトがAIに勝る2つの力

 ここまでAIの活用法について記載してきたが、もちろんAIよりもヒトの方が得意とする分野はある。

 1つ目は「例外を判断すること」。ヒトはあらかじめルールやマニュアルが用意されていなくても、状況や要素から物事を判断して対応することができる。AIの場合は、突然の判断を求められたとき、判断材料やその後のシナリオがないと処理ができない。

 2つ目は「ホスピタリティを発揮すること」。営業やカスタマーサポートなどの場面を想像して欲しい。営業では顧客との話の節々からこぼれたニーズをくみ取り、相手の気持ちを先回りして、購入したくなる商品情報を提供する。カスタマーサポートやテクニカルサポートでは、顧客本人も原因が分からずに困って電話しているケースも多い。ヒトであれば、顧客の話から原因を想像しながら解決方法を案内できるが、AIでは原因を特定するために初めからあらゆる質問を繰り返して、膨大な時間を要するだろう。

 リピーターやファンづくりへの貢献や、事故対応でのパニックをなだめたり、オープンコメントに製品やサービスの改善ヒントを見いだしたり――気の利いた顧客対応が可能なことが、ヒトの付加価値といえる。

AIとヒトの役割分担はどうなる?

 AIとヒトによるハイブリッドな顧客対応を実現するためには、どのように役割分担すべきなのだろう?

 結論から言えば、AIができることは極限までAIにやらせ、ヒトはやるべき仕事に特化することである。AIは24時間365日働いても疲れを知らない。年中無休で問い合わせの1次受付をしてもらい、AIは簡単かつ大量の処理対応を、ヒトは例外対応などに特化する。

 自動化が軌道に乗ればヒトの工数が浮く。その工数を使ってヒトは前述の営業、カスタマー・テクニカルサポートなど難易度の高い対応に専念することができる。もしAIとヒトの協業対応がうまくいけば、サービスレベルや顧客の満足度を向上させながら、運用コストを下げることが可能になる。

 AIによる顧客対応の自動化領域が増加すれば、AIをチューニングして、適切な指示を出すエンジニアが非常に重要になってくる。従来のエンジニアとは違うし、業務を最適に行うオペレーションのプロとも違う。顧客の特性を知り、顧客対応の業務自体にも詳しい上に、AIの特性を理解しながらうまく動作するようにトレーニングをしていく、新しい職種が生まれるはずである。

 コンタクトセンター業界に限って言えば、IT技術の知見と、現場の業務を両方把握している人物の担当が望ましいだろう。

コールセンター AIとヒトによるハイブリッドな顧客対応の役割分担イメージ(ベルシステム24作成)

 ここで一つ、海外の事例を紹介しよう。ある海外メーカーでは、故障対応受付業務においてAIとヒトのハイブリッド顧客対応を実現している。

 顧客は商品が故障したとき、まずはWebサイトのFAQを検索して対応を調べる。自身で解決しなければ、コンタクトセンターに電話してスタッフが対応をしていたが、新商品が出るたびに人員を増強しなければならず、経営上の課題となっていた。そこでAIチャットボットを導入して一部の対応を自動化した。

 故障対応の半分が自動化したことにより、これまでヒトが対応していた工数が大幅に削減された。ヒトはAIのサポートや業務改善に注力するなどの役割分担により、顧客満足度の維持・向上につながっている。

まとめ

 AIによる自動化を積極的に活用する企業はますます増えるだろう。応対後に行う対話内容の要約や後工程の処理などのバックオフィス業務も含めて、業務全体の自動化も見えてくる。

 自動化に取り組む企業は知見を蓄積してどんどん成長するが、AIを単なる手段として考える企業はヒトに頼り続けて停滞するのではないだろうか。最後に忘れてはならないのが、顧客はトータルの体験で商品やサービスを評価するということである。

 店舗やWebサイト、広告、SNS、カスタマーサポート窓口など、顧客とのタッチポイントは購入前から購入後まで多くの種類がある。この中でコンタクトセンターの担う役割とは何か、顧客に対してどのようなサービスを提供する必要があるのかを意識しつつ、自動化に取り組んでいくべきだろう。

 次回は顧客対応にすぐに効果が出るVOC(顧客の声)の活用方法について解説する。

北岡 豪史

株式会社ベルシステム24 ソリューション推進本部 コンサルティング部 パートナー

多様な業種・業界向けのビジネスコンサルティングに携わり、2012年に株式会社ベルシステム24へ入社。ビジネス&ソリューションコンサルティングの専門チームを発足。自らもコンサルタントとしてビジネス改革・改善に取り組む。大規模コンタクトセンターでのデジタルCXセンタ―の実現など実績多数。CX専門メディア『コンタクトセンターの森』にて、プロフェッショナルブログを執筆中。


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