日本経済にはびこる「下請けいじめ」 巧妙化するその実態働き方の「今」を知る(1/6 ページ)

» 2024年02月16日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]

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 先日、ユニークなハンコが発売された。「言いづら印」という名称で、「そんなに安く出来ません」「不当な返品はやめて」「やり直しならお金払って」といった、文字通り「下請け企業が言いづらい本音を代弁するメッセージ」が本格的な印相体で刻印された印鑑だ(なお、筆者は本商品の企画監修を務めた)。

下請け企業の言えない本音を代弁する 言いづら印」(画像は公式Webサイトより)

 製造元の印鑑メーカーがこの商品を作った背景には、「発注企業が受注企業に対して不当な要求をする『下請けいじめ』の問題を多くの人に知ってもらいたい」との意志がある。

 以下のような事例を聞いたことがあるだろうか。

 「大手メーカーが、下請けのメーカーに作らせた製品を仕入れる際、契約時の正規料金から『事務手数料』という名目で一定金額を差し引いた代金を支払っていた」

 「有名和菓子店が、下請けの食品工場が納入した菓子が予想より売れなかったため、品質検査を実施していなかったにもかかわらず『品質に瑕疵(かし)がある』との理由で返品し、下請け会社に引き取らせた」

 「大手ホームセンターが、自社店舗の商品入れ替えや陳列作業を手伝わせるために、自社で販売している商品を納品する下請けメーカーに対して従業員派遣を要請し、無償で働かせた」

 このように、ある企業が、自社で販売・使用する商品や製品を発注している下請け企業に対して、不当な値切り行為や支払遅延をしたり、相手側に非がないにもかかわらず、受け取り拒否や返品などをしたりする行為を総称して「下請けいじめ」と呼ぶ

「下請けいじめ」がはびこっている日本社会(画像提供:ゲッティイメージズ)

 発注企業側としても、下請け企業からの納品がなければビジネスを進められないわけであるから、建前上は両社対等の立場であるはずだ。しかしどうしても「発注側」と「受注側」という関係性が生まれる以上、上下関係が発生してしまうことは避けられない。

 そんな背景から、元請け(発注側)の立場を悪用した、下請け(受注側)へのパワハラが、多くのビジネス現場において深刻な問題となっている。

どんどん巧妙化する下請けいじめ、過去最悪の状況に

 政府や当局も、各種法律や相談窓口を整備するなどして下請けいじめの根絶に力を入れている。しかし残念ながら、被害報告は後を絶たない状況だ。公正取引委員会は実際、2022年度に下請法違反で指導・勧告した件数が前年度より745件多い8671件あったと発表しており、これは過去最悪の数字である。

 それも、あくまで公取委の勧告や指導まで至った件数であるから、泣き寝入りも含めれば、この種の下請けいじめの被害は相当数にのぼることだろう。ちなみに冒頭の事例はいずれも、直近数年内で実際に発生し、公取委から勧告を受けて報道発表されたケースだ。

 また、元請企業による下請けいじめの手法は年々巧妙化している。下請け企業側は不利益を被っていることをなんとなく認識しつつも、元請企業から受けている行為が下請けいじめに該当するのか確証が持てなかったり、もし該当するとしても「どのように対処すべきなのか分からない」と困惑したりするケースが数多く存在しているようだ。

 本記事では、どのような行為が下請けいじめに該当するのか、そして下請け企業側はどう被害を予防したらいいのか、もし「被害を受けたかも……」と感じた場合、どう対処すべきかなどを解説していく。

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