日本経済にはびこる「下請けいじめ」 巧妙化するその実態働き方の「今」を知る(6/6 ページ)

» 2024年02月16日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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下請けいじめへの対処法

 では、不幸な下請けいじめ被害に遭わないようにするためにはどうすればよいのか。順を追って段階別に解説しよう。

(1)発注内容を書面で発行してもらう

 まずは先述の通り、下請法では元請業者に対して発注書面の交付を義務づけているため、後々「言った、言わない」のトラブルにならないよう、口頭での受発注ではなく、必ず書面で発注内容を明示してもらうよう要請しよう。

 発注内容や下請代金の金額などを書面で明示しておければ、下請いじめが疑われる際に証拠として機能することになる。

発注内容を書面で発行してもらう(画像提供:ゲッティイメージズ)

(2)担当者間→会社間で交渉する

 支払代金から不明な減額があったり、理由のない値引き要請、自社側に非のない返品依頼がなされたりなど、実際に下請けいじめが疑われる行為があったとしても、本稿で述べてきた通り、元請企業の担当者による勘違いや、そもそも法令違反に該当する下請けいじめだという認識がない、といった可能性がある。

 そのような場合、まずは担当者で確認を取り、場合によっては上長レベルで交渉し、契約内容に関する認識や齟齬の有無の確認をするところから始めよう。

 相手方に改善の意思が見られない場合は、抗議することも検討すべきだ。それによって、下請けいじめとされかねない行為が改善する可能性がある。しかし、それでも改善が見られず、同様の行為が何度も続くようであれば、元請企業に対して然るべき対応を取ることを検討しなくてはならない。

(3)監督官庁へ通報する

 下請けいじめに関する相談や通報は、各地域における公取委の事務所が受け付けている。通報する際は、事実関係をしっかりと整理した上で、可能であれば証拠をそろえておくことが望ましい。

 告発により下請けいじめが確認された場合、公取委は親事業者に対して指導・勧告・報告命令・立ち入り検査、さらに罰金の支払い命令(刑事罰)などを行う権限を有している。

 また、全国中小企業振興機関協会が「下請かけこみ寺」の通称で、中小企業・小規模事業者の取引に関する相談や苦情紛争処理を受け付けている。全国広範囲に受付窓口を設置、下請けいじめを始めとする中小企業が抱える悩みについて無料相談を受け付けるとともに、裁判外紛争解決手続(ADR)をしている。

(4)調停による紛争解決をする

 下請けいじめなど企業間取引などについて生じた紛争は「調停」を申し立てることができる。調停を申し立てると、弁護士などの調停人が下請事業者と親事業者の間に入り、和解に向けた話し合いが実施される。調停人が間に入ることで、紛争の当事者間のみによる話し合いよりも迅速かつ簡便な問題の解決が期待できる。

(5)損害賠償請求をする

 下請けいじめという不法行為が原因で会社に損害が生じている場合は、実際に受けた損害(積極損害)について賠償を請求できる。また、下請け代金の未払いや支払い遅延などの場合は、実際に支払われるべき下請け代金に遅延利息を付加して請求することも可能である。

 ただし、未払い代金や損害賠償の請求には時効がある。例えば、小売・卸売の商品代金であれば2年、建築工事代金であれば3年で時効が完成し、たとえ下請けいじめによる代金の未払いだったとしても回収ができなくなってしまう(ただし、民法改正により2020年4月1日から、権利を行使できるときから10年または権利を行使できることを知ったときから5年間のいずれか短い期間となっている)。

 また、損害賠償請求は下請けいじめという不法行為による損害の事実を知ったときから3年または不法行為があったときから20年経過すると、時効が完成してしまう。

 時効を中断するためには、裁判上の請求、支払い督促の申し立て、差し押さえなど、いくつかの方法がある。具体的には、まず親事業者に対して支払いを求める「催告」を内容証明郵便で送付する。この時点で親事業者が催告に応じようとしない場合、親事業者に内容証明郵便が送達されてから6カ月以内に訴訟を提起すれば、時効を中断させることができるのだ。

 とはいえ、この段階まで至ってしまうと莫大な精神的エネルギーと時間、そしてお金まで費やすこととなってしまうため、積極的にお勧めはできない。

 まずはなんといっても普段から密なコミュニケーションを心掛け、良好な関係性を維持しておくこと、そして受託企業側も技術力やサービス品質を向上させ続け、元請企業にとって「数ある下請け企業の一つ」ではなく、「かけがえのないパートナー」としての存在価値を高めていくことに尽きるだろう。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

 

著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。

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