マーケティング・シンカ論

マーケティングの「学習範囲と8つのスキル」 プロは「理論」から学ぶトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(2/2 ページ)

» 2024年02月21日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]
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1階:基礎知識(+素質・素養)

 3階と2階の話は、要素や説明の仕方は違えど、さまざまなところで論じられてきたことであり、特段新しいことはなかったと思います。

 ここからは私の一番の主張である、活躍しているマーケターが持っているスキル(2〜3階)を支えているのは、1階の「基礎知識(+素質・素養)」だということについて話していきます。

1階-1:実践知識

 2〜3階のスキルを総動員してマーケティング実務で成果を出すためには、実践知識が不可欠です。なぜなら、知らないことは考えられず、考えられないことは実践できないからです。

 例えば、PESO(Paid Media:広告、Earned Media:PR、Shared Media:ソーシャルメディア、Owned Media:Webサイトなど)に関する正しい知識を持ち合わせていなければ、どんなときに広告が効き、どんなときに広告は効かないのか。ソーシャルメディアで「できること」と「できないこと」は何で、どんな課題解決と相性が良く、逆にどんな課題解決とは相性が悪いのかを、正しく判断することができません。

 それゆえ、実践知識のインプットに対するニーズは大きく、世には数多の「教育コンテンツ」が存在します(例:業界メディアの記事、YouTube動画、業界各社が提供するウェビナー、書籍など)。

 しかしここに罠が隠されています。

 スマホやSNSの普及は、人間の「せっかち度」を加速させました。1.5倍速で動画を見て、短尺動画をつまみ食いする。思考を深めるための概念や理論は疎んじられ、事例に(ヒントではなく)答えを求める。

 この世に「誰でも、簡単に取り組め、すぐに、必ず成果が出る方法」などありません。持続可能かつ高い再現性を担保するためには、実践知識を学ぶにも、パターン、法則、規則性を抽象化した「理論」を学ぶ必要があり、そのためには「きちんと整理された書籍を読むこと」が最良の手なのです。

1階-2:理論知識

 私が特に強く主張したいのが、この理論知識を学ぶことです。多くのマーケターは、実践知識を学びません(学んでいるつもりでもそれは上っ面をさらっているだけです)。そして、実践知識を比較的きっちり学ぶ人でも手を付けないのが、この理論知識の習得です。

 マーケティングの相手は人間ですから、マーケティングの目的は「人間の営みを科学し、再現可能性を高めること」と言い換えられます。そしてその人間の営みにおけるパターン、法則、規則性を過去数十年にわたって研究し、体系化されたものが「理論」です。

 1階-1の実践知識のほぼ全ては、このさまざまな領域の理論の上に立脚しています。全てのベースであり、「型」がここに凝縮されているのです。

 長年、マーケティングの現場で活躍している一流マーケターは、ほぼ例外なく理論を学んでいます。抽象度の高い理論や概念を熟知しているからこそ、時代や業界の変化に合わせて実践知識を正しく上書きでき、安定的に成果を出せるのです。

 こう言うと、「理論に詳しくても実務ができない奴はごまんといる」という意見が出ますが、それは因果が逆です。理論を知っていればマーケティングで成果を出せるのではなく、マーケティングで成果を出し続けている人はすべからく理論を学んでいるのです。

 理論の知識は複利で効きます。正しく、体系だった理論知識をできる限り若いうちに学ぶことで脳内に正しい整理棚をつくり、入ってくる情報・知識・経験にレバレッジが効くようになります。

 マーケティング実務者は、できる限り早い段階で理論を学ぶべき。これが私の「学び方を学ぶ」における最大の主張です。

1階-3:素質・素養

 マンダラチャートの最後は、素質・素養です。スキルや知識とは毛色が違いますが、決して無視できない重要な要素です。

 先述した通り、マーケティングの相手は人間です。そして、その人間は、時代や環境とともに早いスピードで変化します。マーケティングは「お客さまに買っていただくこと、および買い続けていただくために行う全事業活動」ですから、相手や環境の変化にフィットさせ続けなければなりません。そして、そのためには、自分自身が「おおいなる消費者」である必要があります。

 「なぜこの商品はこんなに売れているのか(売れていないのか)」「なぜここにこんなお店ができたのか(撤退してしまったのか)」「なぜ、価格が安いPB商品よりもNB商品を買う人が多いのか」「なぜ人は言っていること(こんな商品が欲しい)と、やっていることが違うのか(実際は買わない)」──。

 1日は24時間で、大半のマーケターの所定労働時間は1日8時間です。仕事中だけマーケティングのことを考えている人と、プライベートや休日を問わずあらゆるシーンで「勝手に “なぜなぜ” と考えてしまう人」のどちらが高いマーケティング思考を手に入れることができるか、いわずもがなでしょう。

 マーケティングにセンスは必要ありません。正しく言えば、水野学著『センスは知識からはじまる』(朝日新聞出版)です。一方で、そのセンスを磨くための知識を学びたい、さらに言えば、学ぼうとしなくても勝手に学んでしまう素質と素養を備えた人こそが、真にマーケターに向いていると言えるでしょう。

マーケティングスキルの習得には「型」がある

 本記事では、マンダラチャートに沿って解説をしてきましたが、誤解しないでいただきたいのは、1階部分の実践知識や基礎知識だけでなく、2〜3階の全ての領域で、再現性を高める理論や法則が存在するということです。座学で学ぶべきは1階部分だけでなく、2階も3階もしっかりした「型」を学んだ上で実践し、振り返りましょう。

 読書家として知られる星野リゾート代表取締役社長の星野佳路さんは、中沢康彦著『星野リゾートの教科書』(日経BP)の中でこう述べています。

教科書通りに判断したにも関わらず成果が出ないときもある。しかし、それでも最初の一歩としては正しく、そこから戦術を調整すればいい。何の方法論も持たずに飛び出すのに比べて、教科書に従えばはるかにリスクを減らせるのだから、まず教科書通りやってみる。それが大切だと思う。

(中略)

教科書に沿って経営判断した結果、すぐに良い結果が出始めた時もあれば、成果が現れるまで工夫を繰り返し、時間を必要としたケースもあったが、私が過去に選んだすべての教科書はみちしるべとして役に立った。

自分の直感力を信じられない時に、教科書は自らの経営判断の根拠となり、自信を持って頑張る勇気を与えてくれるのである。

 教科書通りにいかないとき、教科書が悪いのではなく、教科書通りに実践できていないことに問題があると考える。

 一人のマーケターが1回の人生で到達できる世界など、たかが知れています。だからこそ先人から徹底的に学ぶ。その上で実践を重ねながらチューニングを繰り返し、自身のビジネスにフィットさせて行く。これこそが、不確実な時代における最短かつ最速の道なのだと思います。

 次回は、マーケティング学習(知る)のステップ、何をどの順番で学ぶべきかについて解説します。

 ※今回、本記事で提示したマンダラチャートは筆者個人の意見によるもので、マーケターに必要なスキルや知識のマンダラチャートは無数にあると思います。ぜひSNSなどで皆さんの考えるマンダラチャートを教えてください。

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著者紹介:株式会社トライバルメディアハウス代表取締役社長 池田 紀行

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1973年生まれ。マーケティング会社、ビジネスコンサルティングファーム、マーケティングコンサルタント、クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表を経て現職。大手企業300社以上のマーケティング支援実績を持つ。宣伝会議マーケティング実践講座 池田紀行専門コース、JMA(日本マーケティング協会)マーケティングマスターコース講師。 年間講演回数は50回以上で、延べ3万人以上のマーケター指導に関わる。近著『マーケティング「つながる」思考術』(翔泳社)のほか、『売上の地図』(日経BP)、『自分を育てる働き方ノート』(WAVE出版)など著書・共著書多数。X(旧Twitter):@ikedanoriyuki

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