マーケティング・シンカ論

マーケティングの「学習範囲と8つのスキル」 プロは「理論」から学ぶトライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」(1/2 ページ)

» 2024年02月21日 08時30分 公開
[池田 紀行ITmedia]

連載:トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」

マーケティングはビジネスを成功に導く武器です。しかし、その領域は広範で専門性が高いことに加え、テクノロジーの進化や消費者ニーズの変化を常に反映させる必要があるため、簡単に扱えるようにはなりません。にもかかわらず、基本の学び方を理解せずに迷子になるマーケターが後を絶ちません。本連載では「マーケティングの学び方を学ぶ方法」を解説します。マーケティングの学習法を身に付けて初めて、マーケターのスタートラインに立つことができます。トライバルメディアハウスの「マーケティングの学び方を学ぶ塾」開校です。

 前回は、マーケティング学習において迷子になってしまう最大の要因は、マーケティングを学ぶ前に「学び方を学んでいない」点にあると解説しました。

 今回はマーケティングの全体像と、マーケターが学習すべき範囲や求められるスキルについて話します。

マーケティングの全体像 カバー範囲は多岐に

 マーケティングとは「お客さまに買っていただくため」および「お客さまに買い続けていただくため」に行う全ての活動です。

 自社ビジネスを取り巻く外部環境、自社の経営資源(人的資源/商品や設備や技術/予算/情報)、競合、顧客ニーズのリサーチ・分析は、言うまでもなくマーケティングです。地続きにある、売れる商品の企画・開発や既存商品の改善もマーケティングですし、価格設計や販売場所などのチャネル政策も該当します。

マーケティングの主要業務(画像:以下、筆者作成)

 そして、これらとともに大切なのが「お客さまに価値を伝える仕事」、つまりマーケティングコミュニケーションです。マーケティングコミュニケーションは、主に広告、PR、販売促進の3つから成り、イベントやCRMも隣接しています。

 一言でマーケティングといっても、カバーしなければならない領域がとても広いことが分かります。

マーケターに求められるスキルと知識 3段構造で解説

 マーケティングのプロとして安定的に再現性高く成果を出すためには、「スキル(熟練した技術)」と「知識(ある事項について知っていること)」が不可欠です。スキルは正しい知識の上にしか成り立たず、「知識はなくても成果が出せる」ことは基本的に起こり得ません。

 その視点から考えると、「マーケターに求められるスキルと知識」は、以下のマンダラチャートのようになります(マンダラチャートは、大谷翔平選手が目標管理シートとして活用していたことで再注目されるようになりました)。

マーケティング知識・スキルのマンダラチャート

 マーケターのスキルと知識は、マンダラチャートの形式に沿い、3階建ての建物としても捉えることができます。

3階:実践スキル

 3階部分は「実践スキル」です。目の前には(売りたい/お客さまに買っていただきたい)具体的な商品やサービスがあり、お客さまがいて、競合がいて、解決すべき課題があります。売り上げを上げるために、思考し、戦略を立て、実施施策を企画検討し、準備し、実行し、成果を出さねばなりません。

 この実践スキルは、さらに3つに分解できます。

3階-1:論理的思考力

 限りがある経営資源(予算、人的資源、時間など)を用いて競合と戦い、成果を出すためには戦略が必要です。戦略立案では、さまざまな情報を大局的に分析し、思考を巡らせます。その思考の質を決めるのが論理的思考力です。

 「今回の戦略は、なんとなくこんな感じかな! 根拠はないけど!」では困ります。戦略を絵に描いた餅にしないためには、戦略の4要素「実行可能」「実現可能」「計測可能」「再現可能」を満たさなくてはなりません。そのためには論理的思考による「筋」を通す必要があります。

 論理的思考力は、次に続くプランニングやクリエイティブの成否を決める重要な思考スキルでもあるのです。

※「戦略」について詳しく学びたい方は、前回の連載「トライバルメディアハウスのマーケ戦略塾」も合わせてご一読ください


3階-2:プランニング力

 論理的思考力によって「筋の良い戦略」が描けても、そこで導出されるのは「解決すべき真のイシュー」「狙うべき顧客と、真のインサイト」「誰とどのように戦うのか(または誰とは戦わないのか)」など。

 「で、具体的には何をどうすればいいの?」に代表される具体策はプランニング力にかかってきます。

 現代は、以前のように「ワン・ビッグ・アイデア」さえあれば、それを立脚点にしてキービジュアルを制作し、マス広告を打ち、あとは店頭を支配すれば売れる! といった時代ではありません。ターゲットインサイトを正しく分析・把握し、現状の課題(理想と現実のギャップ)を解決する立体的な企画を立て、緻密なコミュニケーションを実行しながら、PDCAによって最適化を繰り返す必要があります。

 これら戦術と実行計画を練り上げるのがプランニング力です。先の論理的思考力とはまた別の「柔らかい頭」が必要といえるでしょう。

3階-3:クリエイティブスキル

 マーケティングは必ず「向こう側」にお客さまがいます。お客さまに自社が伝えたいことを伝える、または伝わるように情報を設計するには、最適な「表現」が必要です。

 俗に「表現戦略(≒クリエイティブ戦略)」と言われるこの領域は、コピーライティング、グラフィックデザイン、CM制作などだけでなく、「誰に何をどのような表現で伝えれば伝わるのか」という領域まで及ぶこともしばしばです。そういった意味で、広義のクリエイティブはプランニングとの重複が大きく、狭義のクリエイティブは「表現物の企画制作」と分類しても良いかもしれません。

 いずれにせよ、お客さまに価値を伝えるためには必ず「表現」を「媒体」に乗せて届ける必要があります。高度な専門スキルですから、皆が皆アートディレクターやクリエイティブディレクターのような領域までは到達できません。ただ、少なくとも「どんな表現であるべきか」「それはなぜか」「(具体的な表現物を見たときに)良いか悪いか」を論理的に会話する批評力は持ち合わせていなければなりません。

 決して「こっちの方が好きだな〜」などと個人の主観や好みで会話をしてはなりません。クリエイティブは、マーケティング上の課題を解決し、売り上げを上げるための重要ファクターです。「自分はセンスがないから」「ここはプロに任せて」と逃げず、論理的にクリエイティブと向き合えるスキルを磨かなければなりません。

2階:ベーススキル

 2階部分はベーススキルです。いくら論理的思考力、プランニング力、クリエイティブスキルが高くても、ベーススキルが足りないと大きな成果を出し続けられません。

 なぜなら、マーケティングはほぼ確実に複数の専門スタッフがチームを組んで業務に当たるからです。

 特に大きなプロジェクトになれば、営業、ストプラ(コンサルタント)、リサーチャー、プランナー、クリエイティブディレクター、各種制作進行ディレクター、メディアプランナーなど複数の専門スタッフがいて、さらにその先にリサーチ会社、制作会社、イベント会社、PR会社、各メディアなどの外注パートナーがいます。

 これら大所帯の中でキッチリと自身の役割を果たすためのスキルが、2階部分のベーススキル(≒ゼネラルスキル)です。

2階-1:プロジェクトマネジメント力

 プロジェクトは千差万別です。市況や消費者、競合、有効な打ち手の変化が激しいため、戦略も実行施策も同じものは何一つありません。与件変更や環境変化への迅速な対応も求められます。

 そんな状況下で「良い仕事」をするためには、プロジェクトマネジメント力が欠かせません。常に状況が変化する中で業務を推進する仕事の段取り力や、先々発生しそうなリスクを予め潰し込んでおくリスク察知能力、そして数ある外注パートナーに思い通りのパフォーマンスを発揮してもらうためのディレクション力など、プロジェクトマネジメント力に必要なベーススキルは必須といえます。

 ここで無視できないのが、安定したメンタルと健康な身体です。「マーケターに必要なスキルと知識」なのに「メンタルと体力?」と思われるかもしれませんが、これが意外に重要なのです。

 マーケティング業務に限った話ではありませんが、仕事には必ず納期があります。単に納期を守れば良いだけでなく、期待される水準ないしそれを超える品質を担保した上で期限に間に合わせる仕事運びが求められます。体調不良で納期を守れなかったり、メンタルの波があったりする人に大きな仕事は任せられません。

 このように、マーケティング業務のパフォーマンスは「論理的思考力」「プランニング力」「クリエイティブスキル」が直接的な影響を与えますが、それらをいかんなく発揮するためには「プロジェクトマネジメント力」が必要で、それを支えるのがもう一つのベーススキルである「コミュニケーション力」です。

2階-2:コミュニケーション力

 コミュニケーション力には2つの側面があります。対人コミュニケーションを円滑に進める力、いわゆるコミュ力が一つ。もう一つは、分かりやすさや説得力を持ったコミュニケーション力です。これらの2つは少々異なるスキルや知識に支えられています。

 前者は、いつも明るく笑顔、活舌の良い話し方、聞き上手などの非言語的なスキルによって強化されます。IQ(頭の知能指数)に対して、EQ(心の知能指数)に分類されるスキルです。一方、後者を支えているのは、言語化力やプレゼンテーション力です。具体的には、話を論理的に展開できたり、相手の疑問を察知し適切な補足説明を加えられたりする力を指します。

 マーケターが仕事をする上での「分かりやすさ」や「信頼感」は、単に「人当たりの良さ」だけで獲得することはできません。そしてその「分かりやすい」ことによる「信頼感」は、1階部分の「基礎知識」に支えられています。

 長くなってしまいましたが、ここからが本記事のメインディッシュです。プロのマーケターになるための重要な土台である1階部分について話していきます。

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