宇都宮のライトライン、東側の成功と西側延伸が必要な理由杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)

» 2024年02月24日 05時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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トランジットモール化構想は実証実験済み

 ただし、宇都宮市はすでに手応えをつかんでいる。06年の11月4日と5日に大通りでトランジットモールの実証実験として「大通りにぎわいまつり」を開催し、中央車線は路線バスとショッピングモール送迎バスのみ通行可とした。七五三の参拝客が多く、トランジットモール手前の渋滞は午前11時で最大1.5キロメートルになったけれども、午後にかけて収束。渋滞に関する苦情はなかったという。迂回(うかい)路を案内できたこと、トランジットモール化の告知によりバス利用が増えて自動車交通が全体的に減ったことも検証で明らかになっている。何よりも周辺の商店からは客が増えたという報告が上がっている。

 実証実験を「良い」と評価したのは、来訪者の85%、バス利用者の89%、商店主が70%、タクシー・バス事業者が60%となった。全体として「良い」が76%、「悪い」が3%、「どちらともいえない」が21%となった。今後の課題として「大通りの交通量は平日の方が多いため、平日の検証」「実施区間が長くなるため、迂回路の拡幅整備」「休日限定や時間限定の検討」が必要とのこと。

「今後、中心市街地を魅力的にしていくためにどのような取り組みが必要か」の問いに対するアンケート結果。トランジットモールの要望は大きくないとはいえ、「歩きやすい道づくり」「イベントの実施」の要望はトランジットモールで解決できそうだ。一方、駐車場や車線の増設の要望も強く、トランジットモール実現に向けた課題が明らかになった(出典:宇都宮市、大通りにぎわいまつり(トランジットモール社会実験)調査報告書・第3章(5)

 この実証実験ではバスの通行を認めたけれども、ライトラインを走らせた場合は、バスも通過できない。特例としてバスの併用軌道進入を認めると、ライトラインの定時運行が難しい。宇都宮市でバスを運行する関東自動車は、「大通りにぎわいまつり」の実行委員であり、ライトラインを運行する宇都宮ライトレールの株主でもある。宇都宮駅前路線はドル箱のはずで、締め出されたくないだろう。

 しかし一方で、バス会社が抱える問題もある。バス運転手の不足に加えて、脱炭素社会に向けた電気バスの導入でコストが増える。大通り路線は主力幹線だけど、各方面からの運行重複による無駄も多い。ライトライン反対派による「バスで十分」は、もうすぐ破綻しそうだ。そうなると、宇都宮駅乗り入れは主力路線に絞り、ローカル路線はライトライン接続としたほうが効率的といえそうだ。

 バスの再編は熊本市が成功例だ。熊本市は複数のバス会社の路線が熊本駅を発着し、競争過多の弊害が出ていた。そこで「バス共同経営」を立ち上げ、熊本駅前発着路線を整理し、そこで余剰となったバスと運転士を不便だったローカル路線に振り向けている。熊本市の場合は複数事業者だから調整に苦労したと思うけれど、宇都宮市は関東自動車だけで路線の整理ができる。

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 宇都宮市で、日本で初めてのLRT共存型トランジットモールが実現するかもしれない。宇都宮市の政策推進力と、関東自動車の協力、そして市民の理解によって「歩いて楽しい宇都宮のまち」がつくられそうだ。その先には大谷観光地への延伸があり、実現すれば観光都市としても期待できる。LRTでこれほど街は変わるのか、驚くことばかりだ。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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