マーケティング・シンカ論

サントリー「糖質ゼロビール」絶好調の裏で 「CM×店頭」連動させたマーケティング戦略とは事例

» 2024年02月27日 08時00分 公開
[岡安太志ITmedia]

 サントリーに「パーフェクトサントリービール」(PSB)という商品がある。糖質ゼロをうたいながらも、発泡酒でも第3のビールでもない力強い飲みごたえにこだわった商品だ。機能性ビールにおける同社のフラッグシップ商品としてリニューアルを重ね、2023年の販売数量は316万ケース(対前年103%)に上った。

パーフェクトサントリービール(PSB)(出所:プレスリリース)

 生活者の立場からすると、ビールは新しいブランドに手を伸ばすハードルが高い。業界大手のサントリーといえど、消費者の「週末の楽しみに買うビール」候補に食い込ませるのは容易ではない。

 PSBブランドの成長を陰から支えているマーケティング施策が、カタリナマーケティングジャパン(東京都港区、以下カタリナ)の「カタリナTVCMモニター」(以下、TVCMモニター)だ。テレビCMでの露出と店頭での販促を連携させ、生活者がブランドを認知するところから、最終的に購買行動につながるまでを追いかけ、促す役割を担っている。

 テレビCMはブランドを広く認知させられる一方で、実購買への影響度を補足しづらい広告手法である。こうした課題をどのように乗り越えているのか。全国のビール缶製品の営業活動推進を担当するサントリーの梅垣皓亮氏(営業推進本部 家庭用統括部 ビール事業担当)とカタリナの飯田敏人氏(ブランドマーケティングソリューション アカウントディレクター)に聞いた。

「CM」と「店頭」を連動させる仕掛け

 冒頭にも書いたように、決して安くない価格帯であるビールは、消費者にブランドスイッチを促すのが難しいカテゴリーだ。メガブランドが寡占するなか、消費者に今まで選ばなかった銘柄を手にしてもらうには“最後の一押し”が重要になる。

 最後の一押しを効果的に行うには、さまざまな広告チャネルを組み合わせてユーザーに最適な形で届けるMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)が必要だ。

 カタリナは小売業各社のハウスカードなどをもとに、合計7800万IDにひもづいた購買履歴データを捕捉している。購買規模に換算すると年間約10兆円におよび、スーパーマーケット、総合スーパー、ドラッグストア国内推計販売額(約22兆円)の約半分の購買データを捕捉できることになる。こうした広範に及ぶ捕捉率を生かして、メーカーが打った広告がどれくらい「効いたのか」を可視化できるわけだ。

カタリナのネットワーク(提供:カタリナマーケティングジャパン)

 同社の「TVCMモニター」は、CMの露出量(GRP)と対象商品の購買データを突き合わせ、CMが狙っていた顧客層に対して実際に購買につながったかどうかを追うことができる。こうした効果検証に加えて、購買履歴などをもとに狙った顧客層に対して、クーポンやサンプリング施策をピンポイントに届けることもできる。

消費者視点で想像する「MMM」の世界

 少々ややこしくなってきたので、消費者の視点でシーンを想像してみよう。金曜日の夜、40代のサラリーマンが最寄り駅のスーパーで晩酌用のビールを探す。目当てはプレミアムビールだ。少々値は張るが、たまった疲れを癒す毎週末の楽しみには代えられない。

 いつもの週末、彼はソファに座り、プレミアムビールを開けながらバラエティー番組をぼんやりと見ていた。番組がCMに切り替わると、活気ある町中華の雰囲気が目に飛び込む。食欲をそそるラーメンやチャーハンが次々とテーブルに到着するなか、堺雅人がジョッキを傾けているのはPSB…パーフェクトサントリービールという飲んだことがないビールだった。

 後日、いつものようにビールとつまみのスナックを手に取りレジへ。会計を済ませると、無料でビールと引き換えられるクーポンが発券された。今まで買ったことがないそのビールの銘柄はPSB。CMでやっていたあのビールだ。糖質ゼロなのに飲みごたえがしっかりしているという。次にビールを買う時は、ついでにサンプリングも引き換えてこよう――。

 カタリナのMMMを支援するサービスとはつまるところ、こうした体験の実現に一役買っているというわけだ。

「購買事実」に基づいたマーケティングへ

 こうしたCMとタイミングを合わせた店頭施策の組み合わせによって、PSBの新規購買者獲得数は施策前と比較して約1.7倍に、1人当たりの獲得費用は60%削減した。サントリーの梅垣氏はこう手応えを話す。

 「サンプリングした人の購買行動を追いかけられるのは魅力的。どういう人にサンプリングをすればより定着しやすいか、というPDCAを回せるのも重宝しているポイントだ。クーポンやサンプリングは再来店動機にもなるので、流通様にもメリットのある三方良しのソリューションだと考えている」

サントリー 営業推進本部家庭用統括部ビール事業担当 梅垣皓亮氏

 カタリナの飯田氏は、自社のサービスの強みを次のように説明する。

 「例えば路上で無作為にサンプリング配布を行う手法もあるが、この場合、サンプリングを受け取る人が普段お酒を飲む人かどうかは分からない。また、受け取った人のその後の行動が追えないため『砂漠に水をまくような』施策になりかねない。

 一方カタリナの施策では、CMの放映時期に、普段からビールを飲んでいる人(購買履歴がある人)にピンポイントで商品を味わってもらえる。これがMMMの効果の最大化が期待できる所以(ゆえん)だ」

カタリナマーケティングジャパン ブランドマーケティングソリューションアカウントディレクター 飯田敏人氏

 一般的なマーケティングの方法では、まずは商品のコンセプトや方向性を決め、手に取ってもらいたいターゲット像を想定した上で広告施策を行う。一方でカタリナはターゲット像の購買履歴をもとに、事実に基づいた販促ができる。

 消費者が普段触れる広告のチャネルが多様化し、かつ膨大化しつづけている現代。マーケティング戦略も、より「消費者に訴求できる根拠」がシビアに求められる環境になっているといえよう。

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