モスバーガーを運営するモスフードサービスは、2023年に営業利益が前年比マイナス98%の4100万円に落ち込んだことで「経営危機か」と注目を浴びた。
コロナ禍のさなかにはデジタル化や宅配需要の高騰なども奏功して増収増益となっていたが、23年度に大幅な営業利益の減少と、3億1700万円にも上る最終赤字へと転落した形だった。
その原因は、モスバーガーの特徴でもある「手作り感」にあるとされた。ファストフードのカテゴリーに属すハンバーガーショップでありながら、その対極にあるスローフードのような性質を持ち、価格も比較的高いイメージがあった。
国産の野菜や米をふんだんに取り入れたメニューにも、同社の特徴がある。作り置きではなく、オーダーを受けてから調理を開始する方式もブランドが持つ「手作り感」やスローフードっぽさの基礎となっていると言えるだろう。
しかし、日本国内にも押し寄せていたインフレの波は、人件費と原材料費の大幅な高騰をもたらし、同社を窮地に追いやった。バンズや牛肉のような輸入原材料だけでなく、光熱費や人件費といった幅広いコスト要因が軒並み大幅に値上げされたことで、「手作り感」重視のモスバーガーはコストを価格や調理の合理化ではカバーしきれなかったのだ。
しかし、モスバーガーもここ1年間で数度の値上げに踏み切ったことで、目下で業績のV字回復が発生している。24年度の第3四半期決算によれば、モスバーガーを運営するモスフードサービスの売上高は第3四半期までの累計で705億5000万円と前年同期比で9.9%増となり、営業利益は35億3800万円と同282.2%増という文句なしのV字回復を遂げた。
このようなV字回復の背景としては、23年3月に実施した値上げ効果が一巡したことで客単価が1割ほど改善した点や、コスト削減による経営効率化の成果も大きい。
しかし同年4月以降は値上げしていないことを踏まえると、モスバーガーにおける「値上げのテンポ」はマクドナルドよりも緩やかであったことにも注目したい。
マクドナルドは数度の値上げを経て、23年の7月からいわゆる「都心型価格」を導入し、都内の中心店舗については、通常価格よりも高い金額に改定された。従来、消費者は安価なマック、「手作り感」と高級感のモスというイメージを抱いていたはずだが、都心の一部エリアではモスバーガーの方が安くなり、価格の逆転現象が発生した。
例えば、マクドナルドのフィレオフィッシュは都心価格で400円であるのに対し、モスバーガーのフィッシュバーガーは都心部でも390円と10円安い。セット商品についても、てりやきマックバーガーセットが740円(通常価格は670円)であるのに対し、モスバーガーのテリヤキバーガーのセット価格は880円と、価格差は140円にまで縮まっている。
冒頭で紹介した「手作り感」や原材料へのこだわりを踏まえると、特に顧客数の多い都心エリアにおいて、相対的にモスバーガーのメニューに割安感が出てきている状態なのだ。
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