3つの理由でEV撤退したアップル “急ハンドル”で注力する「新たなビジネス」は何か(2/4 ページ)

» 2024年03月30日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

相次ぐ事故で自動運転の危険性があらわに

 まず22年に、米フォードと独フォルクスワーゲンの共同出資による完全自動運転技術開発のスタートアップ・アルゴAIが清算を発表し、この分野の研究が怪しくなってきたことが感じられ始めました。翌23年初の米テクノロジー見本市「CES」では、前年まで多く見られた、ハンドルがない完全自動運転の試作車はなりを潜め、安全面を重視した現実路線への変更が目立つようになるのです。

 その理由の一つは、完全自動運転であるレベル4は開発にばく大なコストがかかるため、自家用車への搭載は現実的ではなく、コスト面で無人化のメリットが大きい商業交通サービス向けに限定すべきである――と各社の判断が移行したことが挙げられます。

 さらに問題なのが、安全性確保への懸念です。米国で22年11月24日、高速道路を完全自動運転で走行していたテスラ車が突如減速・停止し、後続の車が追突する事故が発生しました。テスラは16年に自動運転モードで死亡事故を起こしていた上、同社の完全自動運転ソフトのベータ版を配信した当日の出来事でもあり、EVソフト開発にとって非常に衝撃的な事故となりました。

 この事故に関連して、米運輸省の道路交通安全局が、テスラの運転支援基礎システムを使用した車が、過去1年間で273件の衝突事故に巻き込まれていたとのデータを公表。全自動運転のEV開発は一気に冷や水を浴びせられることになったのです。その後も自動運転を巡っては、23年10月にゼネラルモーターズ系の自動運転タクシーが人身事故を起こしたことで、さらなる危機感が増してしまいました。

 こうしてレベル4の実用化が難しいという空気が、次第に主流を占めるようになっていき、アップルの開発は遅れに遅れることとなります。最終的にはレベル4の実現を断念。当面、一部の高速道路走行を除くドライバー運転は、ドライバーが主体の運転である「レベル2」と、自動運転が主体となり始める「レベル3」の間である「レベル2+」を中心に採用する方針に切り替えたと、ブルームバーグが報道しました。

 そして、今般のアップルカー開発中止の報道です。全自動運転でないEV開発を、果たしてIT企業であるアップルが続ける必要があるのか。同社がそう考えるのは当然の帰結だったのでしょう。

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