アップルが自動車開発から撤退した2つ目の理由は、EVを巡る環境の変化です。年明けに、マークラインズ(東京都千代田)が調査結果を発表し、23年における世界主要14カ国のハイブリッド車(HV)の販売台数が、前年比でEVなどの伸びを上回ったことが分かりました。一時期はEV化一辺倒で動いていた自動車業界の「脱炭素化」の流れが、ここにきて大きく変わるかもしれない局面を迎えているのです。
大きな要因の一つには、EV自体の価格の高止まりという問題があります。テスラを筆頭に、欧米のEV新車価格はまだまだHVに比べて高く、テスラの23年10〜12月の平均新車販売価格は約670万円です。ちなみに、トヨタのHV主力モデルのプリウスは、275万円から購入できます。この2倍超という価格水準の違いは、EVに対する一般消費者の購買マインドを確実に冷ましつつあるのです。
価格面だけではなく、EVの基本的な使い勝手に関する問題も根強くあります。中でも大きいのは、1回の充電で走行可能な距離と、充電時間です。一般的なEVでは、1回の充電で走行できる距離は、以前よりは長くなったとはいえ300キロ前後とされています。東京〜名古屋間(約350キロ)を走破する場合でも、道中で1回の充電が必要になるのです。
充電にかかる時間は、サービスエリアなどの急速充電機でも30分以上かかるため、ガソリン車のようにスタンド混雑時で5分も待てば順番が回ってくる、といったレベルの問題ではありません。米国では充電スタンドの大渋滞は日常茶飯事で、充電を諦めたEVの乗り捨ても見られるといいます。北米では、この冬の大寒波で、寒冷時に走行可能距離が極端に短くなる現象が話題になりました。寒さに弱いEV電池の特性がクローズアップされたことも、消費者にEVではなくHVを選択させる傾向に拍車をかけているようです。
世界のEV化をけん引してきた中国は、国内景気の減速やEVメーカー乱立による品質低下などから、中国製EVの販売が鈍るなどして、一服感が出始めています。ドイツでは、23年12月にEV補助金が打ち切りとなり、メルセデスベンツが30年の「完全EV化」を見直すなど、EV化のスピードダウンは世界各地域で如実に表れ始めました。
米国ではさらに減速感が顕著で、ゼネラルモーターズがEV集中戦略の見直しを公表し、フォードもEV投資の縮小を含め、資金配分の抜本的見直しを始めたといいます。来るべき大統領選で「EV嫌い」として知られるトランプ氏が再選すれば、EV支援策が一気に縮小するのではないかとの憶測も、減速感に拍車をかけている状況です。このような情勢もまた、アップルにEV開発中止を決断させる要因になったと思われるのです。
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