3つの理由でEV撤退したアップル “急ハンドル”で注力する「新たなビジネス」は何か(4/4 ページ)

» 2024年03月30日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]
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生成AIへの対応に強い危機感

 筆者が冒頭で述べた、アップルがEV開発から撤退した最後の理由と思われる主要事業戦略の変更は、同社にとってEV開発よりも優先すべき新たな事業領域が現れたことを意味します。具体的には、生成AI分野への投資です。

 ChatGPTの登場によって、一気に生成AIが広がりました。しかし、アップルは生成AIの製品搭載で後れを取っており、23年夏以降は株価が伸び悩む状況に直面しています。この情勢に危機感を覚えたアップルは、課題山積のEV開発よりも、現状では生成AIの開発を急ぐべし、との結論に至ったと思われるのです。

 アップルは23年春から、全米の600を超える拠点で生成AI開発人員の募集を行っており、EV開発の中止による人員のレイオフとセットで、メンバーの入れ替えを狙っていると思われます。

 またティム・クックCEOは、2月の株主総会で、年内をめどに「生成AIを使い生産性や課題解決において、変革の機会を提供できるだろう」と、生成AIに関する製品・サービスをリリースする予告をしました。EV開発が無言のうちに進行していたように、アップルが開発中のプロジェクトについて公表するのは異例のことであり、生成AI開発がいかに重要性と緊急性を要するプロジェクトであるのかが、明らかになったといえるでしょう。

 アップルは、このように主に3つの理由によって、10年来の重要経営課題であったEV開発を中止するに至ったわけです。同社のEV開発からの撤退は、自動車業界各社の今後の戦略にも少なからず影響を及ぼすでしょう。アップルがEV撤退とのニュースが駆け巡った直後、日産とホンダがEV開発の協業を資本提携のない時点で急きょ発表したことも、環境の変化をにじませていますし、大きな話題を呼んだホンダ・ソニーのエンタメEV共同開発にも、何らかの方針変更が及ぶのではないかと見ています。

 さまざまな要因や関係企業の思惑が交錯して、次世代の自動車開発競争は状況が一気に混沌としてきたといえます。アップルのEV撤退が意味するところとして、EVが二酸化炭素削減に向けた次世代自動車の「絶対的な本命」ではなくなったことだけは、確かなように思われます。

著者プロフィール・大関暁夫(おおぜきあけお)

株式会社スタジオ02 代表取締役

横浜銀行に入り現場および現場指導の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時はいわゆるMOF担として、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。銀行では企画、営業企画部門を歴任し、06年支店長職をひと区切りとして円満退社した。その後は上場ベンチャー企業役員などとして活躍。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業のアドバイザリーをする傍ら、出身の有名超進学校人脈や銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆者やコメンテーターを務めている。


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