小林製薬の「紅麹」問題 「機能性表示食品」見直しの背景に何があるのかスピン経済の歩き方(3/7 ページ)

» 2024年04月10日 06時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

同業他社ができる対策は

 では、このような事態を避けるためにはどうすべきか。経験から言わせていただくと、発生したリスクに社外のステークホルダーがどうリアクションをして、そのことによってどういう展開が考えられるのかという「リスクシナリオ」を描ける人材を、社内で育成しておくことだ。

 ……と言っても、危機管理に携わったことのない人からすれば「なんのこっちゃ」という話だと思うので、小林製薬のケースで説明していく。今回のような健康被害が報告される前から、「機能性表示食品」というビジネスには3つの「リスク要因」があった。これは「後付け」の話でもなんでもなく、業界の人ならば誰もが知る「常識」だ。

 (1)医療界は機能性表示食品制度に否定的で「廃止」を訴える声もある

 (2)日本医師会はサプリメント摂取の健康被害を注意喚起している。

 (3)日本医師会は「かかりつけ医」にサプリメントについて相談するよう推奨している

 (1)に関しては連日の「紅麹」報道でも多くの医師が「根拠が不明」などと否定的な意見を述べているので、いまさら詳しい説明は不要だろう。(2)に関しても、日本医師会Webサイトの「『健康食品』・サプリメントについて」というページを見ていただければ分かるように、10年以上前からサプリメントの過剰摂取による肝機能障害やウコンの健康被害の啓発をしてきた。

 そして、これらの問題を解決するために日本医師会が進めているのが(3)の「かかりつけ医への相談」だ。22年5月、日本医師会総監修の『健康食品・サプリ[成分]のすべて 〈第7版〉ナチュラルメディシン・データベース日本対応版』(同文書院)という書籍が刊行されたのだが、そのリリース内に分かりやすい説明があるので引用しよう。

「先般、日本医師会が取りまとめ、全会員に配付した『国民の信頼に応えるかかりつけ医として』では、『患者さんに、いつでも、なんでも相談していただけるよう、しっかりとコミュニケーションをとって診察します。』とうたっている。住民や患者の方々から『健康食品』やサプリメントに関する相談を受け、対処することもかかりつけ医機能の一つと言える」(日医君だより 22年5月25日)

 AGA(Androgenetic Alopecia:男性型脱毛症)や禁煙のテレビCMでは必ず「お医者さんに相談」という決まり文言が出てくる。これは「治療」という医療行為が医師の指導の下で行われなくてはいけないからだが、健康食品や機能性表示食品に関しても「かかりつけ医」の指導下に入れていくべきだ、という医療界の未来ビジョンが垣間見えよう。

 こういう「リスク要因」が機能性表示食品にはかねてあったわけだが、実は22年から業界として警戒を強めなくてはいけない政治的な動きがあった。

 これまで一般人には「風邪をひいたら行く病院」くらいの認識しかない「かかりつけ医」というものを、しっかりと制度として整備すべきと岸田政権の「骨太の方針」に明記されたのだ。

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