CxO Insights

IT駆使し業界に新風 不動産マッチング「楽待」運営会社トップに聞く営業利益率50%超

» 2024年04月11日 08時22分 公開
[中西享ITmedia]

 家を買ってアパート経営をしたり、マンションを投資用に購入して老後の安定を目指したりするなど、小金持ちから富裕層まで不動産を投資物件として活用しようとするケースが増えている。

 不動産業界の大半が、業者を通した昔ながらの対面ビジネスだった。だが、IT技術を使った不動産情報を紹介するマッチングサイト「楽待(らくまち)」を開設し、YouTubeチャンネル「楽待 RAKUMACHI」の登録者が50万人を突破(3月6日現在)するなど、業界に新風を吹き込んでいる企業がある。8月で創業20期目になるファーストロジック(東京都中央区)だ。

 同サイトが登場したことにより、紙の契約書による取引が主流だった投資家向け不動産取引がDX化された。対面でやらなければならなかった物件探しや不動産会社への問い合わせを、インターネットを駆使することによりワンクリックでできるようになったのだ。

 「悪徳業者を不動産市場から追い出して、公正な市場を創造したい」と主張する40代の若手社長、坂口直大氏にインタビューした。

坂口直大氏(さかぐち・なおひろ)大学卒業後にシステムエンジニア(SE)として働くが、「SEは35歳が定年」という先輩の言葉に自分で稼げる仕事は何かと考えた結果、電話とFAXが主流だった不動産業界をネットにつなぐことを思い付き、SEで培ったIT技術を駆使して2005年に「ファーストロジック」を創業。06年にポータルサイト「楽待」をリリ−ス。15年に東証マザーズに上場。17年にYouTubeへの投稿動画を開始。創業時から社長。47歳。福井県出身(写真は16年の東証一部に市場変更時。以下ファーストロジック提供)

氷河期就職の“下請けSE” 営業利益率50%超の会社を起業するまで

 坂口氏が大学を卒業した時は、まさに就職氷河期だった。システムエンジニア(SE)として就職し、2次、3次下請け的な仕事を深夜残業もいとわずしてきた。だがある時、SEの先輩から「この仕事は35歳で定年だよ」と忠告された。それで先行きに不安を覚え、自立することを考えたのだ。

 坂口氏が目を付けたのが、毎月自分で支払っている家賃だった。家賃収入は安定した収入源だと思った。当時は2000年になってちょうどインターネットが流行し、ドットコム・バブルを迎えていた頃だ。にもかかわらず、ネットには不動産情報が全くなかった。不動産業者の多くは相変わらず電話とFAXで商売をしていた。その際に坂口氏は「これはIT技術を使って開拓する余地が大きいブルーオーシャン市場だ」と直感したのだ。

 得意とするIT技術を生かし、27歳だった05年、不動産業界に飛び込む決意をした。

楽待のシェア拡大により、インターネットによる遠方物件の売買が可能になるなどDX化が促進

サイトの便利さが評価

 最初は不動産についての知識はなかったものの、マッチングサイト「楽待」を立ち上げた。投資用不動産に絞り、投資したい人と、不動産を売りたい人とをつなごうと考えたのだ。しかし、相手が信用できる人物かどうかで商談が決まる昔ながらの不動産業界では、当初、全く相手にされなかった。「足を棒にして月に100件以上商談したのですが、1件も『楽待』サイトに掲載してくれませんでした」と苦しかった時を振り返る。

 そこで、不動産会社からの要望を徹底的にヒアリングし、サイトを魅力的なものに手直しした。そうすると、オンラインで不動産投資家を集客できる「楽待」の便利さが評価されるように。このサイトを利用した商談が、07年ごろから徐々に成立するようになったのだ。

 ファーストロジックのビジネスモデルは、あくまで投資用不動産に関する情報提供で、不動産の売買の仲介はしない。売りたい物件や、その関連情報などを表示し、不動産会社からサイトへの掲載料をもらうビジネスモデルだ。

物件掲載のイメージ

売上高20億円 営業利益率50%超

 その後はサイトが評判を呼び、掲載する不動産物件が急増した。現在「楽待」には6万4000件(4月3日時点)の物件情報が開示され、5000社の不動産会社が登録している。先行していた同業の「健美家」を追い抜き、不動産投資家の「集客力」は業界有数(※)のポータルサイトを運営する会社に成長した。

 掲載料金はエリアによって異なるものの、10物件までは月額3万円、20物件までが4万円と掲載件数に応じて増額される。その後、15年に東証マザーズに上場。16年に東証一部に市場変更し、22年には市場変更に伴ってスタンダード市場に上場している。

 年間売上高は約20億円で、売り上げの柱は「楽待」への掲載料だ。投資家を対象にしたセミナーなども開催する。驚くべきは営業利益率が50%を超える利益率の高さだ。従業員は83人ほどで、そのうちIT関係のエンジニアが約20人。今年も7人の新卒を採用した。

※『物件数No.1』:日本マーケティングリサーチ機構調べ(2022年12月)、『使いやすさNo.1』:ゴメス・コンサルティング調べ(2022年12月)、『利用者数No.1』:自社調べ(2022年12月)

YouTubeチャンネル「楽待 RAKUMACHI」のトップページ

威力発揮する「楽待砲」

 実は、この会社は単なる情報提供会社ではない。社員の中には7人の記者がいて、時事通信の元記者などマスコミ経験者もいる。さらに動画を担当する社員が6人。特ダネを出すことで知られている『週刊文春』の「文春砲」に例えれば、ファーストロジックの「編集部」記者が取材してきたネタを同社のサイトにアップする「楽待砲」を何度も撃っているという。

 その特ダネをアップするサイトが「不動産投資新聞 - 楽待」で、ここには投資家からのトラブル事例なども掲載される。動画もアップしていて「投資用物件として買ってはみたものの、とんでもない不動産だった。どうしたらよいか教えてください」といった相談も多い。

 18年に発覚して金融不祥事として騒がれたスルガ銀行の不正融資事件の報道は「『楽待新聞』に同年1月25日に記事掲載したのが、発端になりました」と明かす坂口氏。このほか「広告などわが社と数千万円の取引のあった不動産会社であっても、不正取引をしているというクレームがあり、わが社の審査で事実が確認された際に、サイトへの掲載を中止したことがある」という。

坂口氏は、スルガ銀行の不正融資事件の報道は「『楽待新聞』に記事を掲載したのが、発端になりました」と明かす

 掲載中止、取引停止といった不正行為をした不動産業者に対するペナルティーの対象になったのは、23年下半期だけで、取引停止にした事例が10件、ペナルティーが4件と合計14件といった具合だ。公的機関でもない、ひとつのネット広告会社が不動産業者に対して「制裁」を課すという事例はこれまで聞いたことがない。筆者にとっても新鮮な印象だ。

 ペナルティーを受けた不動産業者は、一定期間内に改善報告を提出すれば、掲載は元通りにできるようになるという。「制裁」することが目的ではなく、あくまで公正な不動産市場を創るのが狙いだ。不正行為をした業者の側も、楽待に掲載できないと営業できなくなるため、立場的にはファーストロジックの方が優位にある。業界にとっては軽視できない「楽待砲」というわけだ。

自社も評価対象

 この会社はインターネット広告をビジネスとするIT企業に分類されてはいる。だが、不透明な不動産市場に対する「ご意見番」的なことを、業界の反発にもひるまず行う「編集部」が活発に活動することで、「悪徳業者の追放」を実現していく構えだ。

 坂口社長は「不正行為に対してペナルティーを課すと、不正行為に関する情報提供がどんどん寄せられるようになります」と話す。まさに業界の「駆け込み寺」な存在になりつつある。

 不動産業界は、業者関係者にしか知られていない不透明な部分が多い。このため、お金には厳しい投資家といえども、不動産業者にだまされたり、不当な要求をのまされたりして泣き寝入りすることもあるのだ。

 このため、こうしたサイトが市場で認知されてくると、不正行為が世間にオープンにされるため、サイトの存在が不正や迷惑行為の抑止効果にもつながり、不動産市場の正常化にもつながる。

 ファーストロジックは、不動産業者を評価するだけでなく、自らの会社も評価の対象としている。投資家や不動産業者から「公正な不動産投資市場を創造する」というビジョンや、ビジョン実現に必要な3つのミッション「不動産投資家の支援」「不動産業界の健全化」「不動産情報の透明性向上」に即した運営ができているかを、ユーザーに5段階で評価してもらっている。現在は「3.5」前後で推移していて、坂口社長は「できれば早いうちに4点台まで引き上げたい」と話す。さらにミッション・ビジョンの実現度に対する評価を引き上げたいようだ。

地方向けにもPR

 今後のことは「YouTube登録者数をいまの倍に当たる100万人まで増やして認知度をアップしたい。これまで大都市圏を中心に活動してきたが、これからは地方にもPRしていきたいと考えています。テレビCMや看板広告、YouTubeチャンネルを使って知名度を上げたい」とさらなる成長を目指す。YouTubeでは、お笑い芸人のさらば青春の光やTKO、元メジャーリーガーの上原浩治などを起用。看板広告で有名な「きぬた歯科」とコラボした看板も、4月から掲出し始めたところで、さらなる認知度向上を図っている。

 会社をスケールアップして不動産投資市場を拡大したい狙いもあるようで、成長戦略としてはYouTubeのチャンネル登録者数100万人を目指し、M&Aも選択肢の一つとして検討している。投資不動産業界をリードしてきたファーストロジックの動向から目が離せない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.