米国では当たり前だが日本では浸透しない、不動産の売主が仲介担当者(エージェント)とダイレクトにつながる仕組み。そんな不動産業界の構造に一石を投じるマッチングサービス「タクシエ(TAQSIE)」を立ち上げた三菱地所リアルエステートサービス新事業推進部の落合晃さんと馬塲晃さんに、日本の不動産の課題とサービスを立ち上げるまでのプロセスを聞いた。
不動産市場はこの1〜2年好況で、価格はかつてのバブル期以来といわれるほど上昇傾向にある。こうした状況の中、所有する物件の売却を検討している生活者も少なくない。不動産を売却する場合、仲介業者である不動産会社に直接問い合わせる方法が一般的だが、最近は一括査定サイトを利用して高い査定額を付けた不動産会社に相談するケースが増えている。
落合さんは話す。
「ただ、あくまでも査定額ですから、実際にその価格で売れるとは限りません。不動産会社が媒介契約を獲得するために高額査定をした結果、買い手がなかなか決まらないことも少なくありません」
そうなると、できるだけ信頼できるエージェントに相談したいはずだが、日本では不動産会社を選ぶことはできても、仲介担当者を直接選ぶことは困難だ。
こうした状況を打開すべく、居住用不動産の売却検討者と仲介担当者をマッチングさせるプラットフォームとして、5月にサービスを開始したのがタクシエである。
不動産会社の仲介担当者のプロフィールや実績を公開し、売却物件と仲介担当者のマッチ度を表示することにより、売却検討者が相談する仲介担当者を選び、チャットで気軽に相談や依頼ができるようにした。
2019年、経営企画部で新規事業を担当していた落合さんは、新規事業の方向性を探るため、米国の不動産会社やテック企業を複数社視察。そこで目の当たりにしたのが、不動産取引を取り巻く環境についての日本との違いだった。
「日本では不動産の取引情報は事業者にしか公開されていませんが、米国ではそれが一般に公開されています。そのため、消費者と仲介業者の間に日本のような情報の非対称性がありません。それに加えて、消費者はエージェントを直接選ぶことができるため、取引が非常に活性化していました」(落合さん)
落合さんは帰国後、米国の商業用不動産のプラットフォームビジネスを日本で展開する可能性について、約1年かけて検討した。それはオンラインでマッチングから成約まで一気通貫で実行できるビジネスモデルだった。だが、まだ情報の非対称性が強い日本に導入するのは時期尚早との結論に至った。
その後、日本で展開できそうな領域を検討する中で、米国のプラットフォームビジネスの一部であった、仲介担当者のマッチングサービスに着目。商業用不動産よりも情報開示が進んでいる居住用不動産でのサービス展開を想定し、21年春にタクシエのビジネスモデルを構想した。
「情報の少ない消費者には、不動産会社にうまく言いくるめられてしまうのではないか、という不安があります。そのため、不動産を売りたいと思っても、そうした不安が行動を起こす障壁になる可能性があります。そこで、マッチングサイトを通じて信頼できる仲介担当者に安心して取引を任せられるような商習慣が定着すれば、もっと気軽に相談できるようになり、日本でも不動産取引がさらに活発になると考えました」(落合さん)
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