THE MODELでは、顧客との取引状況をステージで管理し、ステージごとにどんな営業アプローチをすればいいのか、という考え方が紹介された。しかし、そのアプローチのやり方自体は上司のフィードバック次第のため、マネジャーの力量によるところも大きい。
そこで、SFAで管理する顧客のステージと連動する形で、ステージを前に進めるためにどのような専門知識やロジックが求められるかを言葉で整理し、研修やツールで再現性を持たせる「セールスイネーブルメント」という考え方が生まれた。
THE MODELでは「リード→課題認識→製品選定→稟議決裁→受注」といった顧客のプロセスに沿ってステージを管理。特定のステージに滞留している顧客の状況を上司がチェックし、前に進められるようにフォローするといった仕事術が紹介された。
ただし、「製品選定」のステージを「稟議決裁」に動かすことは、簡単な話ではない。顧客の視点で考えれば、その製品を選定する意義、自社で導入した場合のROI(投資利益率)、仮に取引をした場合の自社の運用体制、複数製品ある中でなぜその選定なのか、そもそもこの取り組みはソリューションとして正しいのか……などさまざまな検討事項が発生する。
この検討事項は、「お願いします」とただプッシュするだけでは解消しない。そこで営業担当は、顧客の意思決定を前に進めるために、専門的な情報の提供や、段取りのサポートを細かくしていく必要がある。そのため営業は、顧客の意思決定を支えられるプロとしての情報、知性、論理といったスキル持っていなければならない。
そこを整理するのが「セールスイネーブルメント」だ。
このフェーズから次のステージに移行させるためには、こんな知識が必要で、費用対効果としてはこんなシミュレーションができる。段取りとしてはこう考えて進めると、導入後もうまくいく――と営業担当自体の情報力/提案力を強化する。
また、米国では「バイヤーイネーブルメント」という考えが今のトレンドである。法人取引は、営業担当だけが取引締結の説得に動くわけではない。顧客は顧客で、取引の金額が大きくなるほど、新しい取引をするための社内の意思決定を固めるために多方面の調整が必要になる。そのため顧客に対しても、適切な判断や段取りを進めるための情報や理論の武装を行わなければならない。
これを実現するためには、営業商談に活用する情報が体系的に整備できるツールが必要だ。海外ではHighspot、日本ではopenpageやナレッジワークがイネーブルメントツールとして大手企業での導入が進んでいる。
顧客のステージを管理し、その滞留状況や移行率を見て改善すると言っても、結局その説得を動かすには顧客企業の中にいる「人」が重要である。その人に対してどのような情報や段取り、タスクがあれば取引がまとまるのか。セールス(販売)とバイイング(購買)の両輪をデジタル管理する「デジタルセールスルーム(DSR)」もツールとして注目されている。
THE MODELにおいては顧客のステージを進めるフィードバックは「営業のマネジャー」に依存していたが、昨今のセールスプロセスにおいては、セールスイネーブルメント/バイヤーイネーブルメントとして、案件を前に進めるための考え方や工程自体もデジタル管理する考え方に進化している。
ここまで紹介してきたセールスオペレーションは絵空事ではない。筆者が所属するopenpageでは日本の大手企業やベンチャー企業に対してTHE MODELの次の営業体制について支援を行っている。
実はセールスフォース・ジャパンの営業努力によって、すでに日本企業の中でも大企業のほとんどはSFAを導入し終わっている。SFAの導入が済んだその次のセールスオペレーションをどこも模索中だ。挑戦中ではあるが、最新のセールストレンドに関する情報はまだまだ少ない。
本記事が少しでも新しいセールスオペレーションの構築に役立てればうれしく思う。
株式会社ビズリーチにて当時日本で一早くカスタマーサクセスチームの立ち上げを経験し、2018年株式会社openpageを設立。顧客取引のDXソリューション「openpage」を提供、米国流のカスタマーサクセスやセールステックについて最先端の情報を国内で広く啓蒙する。
著書に「実践カスタマーサクセス BtoBサービス企業を舞台にした体験ストーリー」(日経BP、2023年)
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