まずはSDVって一体何だという話だ。SDVとは“Software Defined Vehicle”のことで、直訳すれば“ソフトウエアによって定義される自動車”という意味になる。これはまあどこにでも書いてある。検索さえできれば誰でもたどり着ける情報だ。
意訳するとどうなのかといえば、「これからはソフトウエアこそが大事で、ハードウエアの意味が失われる」というような言い方が多い。
これはちょっと微妙な説明で、どういう読み解きをするか次第の話になってくる。仮に「これまではソフトウエアを軽視し過ぎており、ハードしか競争領域と見なしてこなかった。これからは相対的にソフトウエアの重要度が上がる」という理解なら、その通りだと思う。
ただ、ハードの重要性が失われたという話だとすれば、それは違う。2年くらい前には、あの慎重居士のトヨタでさえ「ソフトウエアファースト」と言い出して、筆者はその技術発表会の質疑応答で異を唱えたことがある。「ソフトが重要になったからといってハードがどうでもよくなるわけじゃない。誤解を招く言い方だ」と。そのせいなのか、もともと内部でも疑義が持たれていたかは定かではないが、トヨタはソフトウエアファーストという言い方を取り下げた。
ソフトウエアファーストの例としてよく持ち出されるのはアップルのiPhoneだ。「OSのアップデートによってどんどん新しい機能が追加されていく。それこそがSoftware Definedの世界である」。そう説明される。ああ、なるほどねと思う人もいるかもしれない。
しかし、考えてもみてほしい。そのアップルは毎年毎年新型のiPhoneを発表する。なぜソフトウエアで新しい機能が追加されるというのに、頻繁に新しいハードウエアを出さなければいけないのだろう。ソフトウエアがハードウエアを制御するものである以上、ハードとソフトはあくまでも一対両輪の関係であって、片方だけでは成り立たないからだ。
端的な例を挙げれば指紋センサーのない機種に指紋認証ソフトをインストールしたところで機能するはずはない。例えば顔認証はどうだろう。iPhoneの顔認証機能では、近接センサーが反応して赤外線ビームを照射、人の顔の凹凸からの反射を赤外線センサーが捉えてインカメラと併せてデータと照合、本人の顔かどうかを認証する。当然ソフトウエアだけで成立する機能ではない。iPhoneのOSであるiOSの場合、数世代前のハードウエアまでカバーしてくれるのが強みではあるが、最新のiOSのフル機能を使えるのは原則的に最新世代のハードである。だからこそ人々は毎年毎年新しいiPhoneの登場に注目するのだ。
このように、機能の実現にはソフトとハードの両方が必要だ。それはごく当たり前の話である。ソフトを軽視していてはいけないという話であって、Software Defined Vehicleにおいては、ソフトがハードより偉いという理解は間違っている。
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