SDVで「ニッポン出遅れ」論が意味すること池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/8 ページ)

» 2024年04月22日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ソフトウエアだけで完結しない難しさ

 さて、では伝統的自動車メーカーにおいて、そのSDVがどうなっていくのかといえば、さまざまなハードを制御するソフトを相互につなげる際に、インタフェース(バス)が統一されていく。というかここはすでにある程度規格化されている。コンピュータでいえばUSBのようなものだが、日進月歩のコンピュータですらプラグ形状別にUSB AもあればBもCもあるし、速度と通信の規格として1.x、2.x、3.x、4.xと言う具合で複雑怪奇なことになっている。

 コンピュータに比べて、製品寿命がはるかに長いクルマにおいて、バスをどうやって汎用化していくかはかなり難しい問題である。現状ではCAN、LIN、FlexRay、Etherなどを場所によって使い分けている。通信速度の速さや信頼性、設計やメインテナンスのコストがそれぞれ異なるからだ。例えば車両制御系の通信は高速性と高信頼性が高度に求められるが、パワーウインドーやヘッドライト、ワイパーなどの制御はコストの方が大事。通信レベルの領域で発生する遅延などどうでもいい。

CANやLINなどがクルマの中でどう使われているかのイメージ図(車載ソフトウエア開発などを手掛けるサニー技研のWebページより)

 それらの適材適所を見極めながら最適なバスでつないで統合制御を行わないとコストを含めた最適化ができない。

 またそれぞれの方式の中でもバージョン違いがあり、例えば同じCANでも3世代が存在して、通信速度ひとつとっても、1Mbpsから20Mbpsとそれぞれ速度が違う。どれを選ぶかで、ネットワーク系で使える部品の世代が変わってくるのだが、コンシュマー製品なので最新最速高性能が正義とは限らない。求められる性能を満たすのであれば、より安価な旧型の方がベターなことはよくある。とはいえ長期情勢をしっかり見極めておかないとモデルライフの途中でその規格の旧態化が進行して、部品も含めた選択幅が狭まるので、適宜アップデートは必要とかなりややこしい。

 製品世代の途中でバスを変えるような設計変更は莫大なコストが必要になり、そして発売年次の異なるクルマが輪唱のようにデビューし、それぞれが最低4年も作られるわけなので、一斉にアップデートすることはまずもって不可能なのだ。

 しかも問題は自動車メーカーの内側に止まらない。電子部品の多くはサプライヤーからの供給品であり、バスのような規格を変えるということは、そのネットワークにつながる全ての電子部品を作るサプライヤーが一斉に新規格に対応した部品を納品しなければならない。

 にもかかわらず継続生産中の別の車種では旧規格が併存しているわけで、サプライヤーは、ヘタをすると数世代の規格に対応するそれぞれのインタフェースを持つ製品を生産しなくてはならなくなる。例えば先般の半導体不足もこれが理由の一つだった。信頼性の高い“枯れた”半導体は、コストと信頼性の両立という意味で自動車メーカーにはまさにベストチョイスなのだが、半導体のサプライヤーにとっては、利幅が小さい型遅れ品をラインをふさいでまでわざわざ作っているということになる。モチベーションは低い。

 コロナ禍で自動車メーカーが半導体の発注を減らした時に、これ幸いとそれらの生産を減らし、生産ラインをより世代が新しく、利幅の大きい製品に切り替えた。コロナも一段落したところで、今まで通りの枯れたヤツをお願いしますと言われても、そんなものをわざわざ作るより、もっと利幅の取れる製品を作りたい。その後、自動車メーカーがこぞって半導体メーカーと提携をしたり、自社で開発をしたりしたのはこれが理由だ。

 要するにバスはソフトウエア領域におけるハードウエアの問題であり、手元での価格メリットと要求性能。それに加えてライフタイムでの調達性を絶妙にバランスを取らなければならないという意味で、自動車メーカーにとって頭の痛い問題である。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.