リテール大革命

待ち時間の解消だけではない、レジなし店舗「Amazon Go」の真の狙いとは?がっかりしないDX 小売業の新時代(1/3 ページ)

» 2024年04月26日 07時00分 公開
[郡司昇ITmedia]

連載:がっかりしないDX 小売業の新時代

デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。

 2018年に一般公開され、レジなし店舗「Amazon Go」に採用されたレジなし決済システム「Just Walk Out」は、カメラやセンサーを使って買い物客の行動を自動追跡し、手に取った商品もカメラで撮影してAIで識別できるとうたうシステムです。買い物客は、商品レジを通さずに店を出て、買い物を完了することができます。

 Amazonが経営するスーパーマーケットAmazon Freshの多くの店舗では、Amazon Go同様のレジなし決済システムJust Walk Outが採用されていました。しかし最近、これらの店舗を、前回の記事で書いたAmazonのAIレジカート 「Dash Cart」(ダッシュカート)方式に変えるという米メディア「The Information」の報道が話題になりました。

レジなし決済システム「Just Walk Out」はカメラやセンサーを使って買い物客の行動を自動追跡し、手に取った商品もカメラで撮影してAIで識別できるとうたうAmazonのシステムだ(筆者撮影)

著者プロフィール:郡司昇(ぐんじ・のぼる)

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20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。

現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。

公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇

公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0


「レジなし精算」実は人の目でチェック? Amazonは否定

 ダッシュカートは、カゴの中の4方向に設置されたカメラで商品のバーコードを読み取ることができ、買い物客は商品をカートに放り込むだけで購買が完了します。

 Amazon Freshでは、ダッシュカートの利用者はダッシュカートを使わない顧客よりも10%多く購入。98%の顧客満足度を得ているため、ダッシュカート利用者は80%以上がリピーターであり、遠方からでも非導入店より導入店に来店する――と、Amazonは公開しています。買い上げ点数の多いスーパーマーケットでは、売り上げ効果の点でJust Walk OutよりもDash Cartが向いているという判断なのでしょう。

 この報道では、インドから約1000人の従業員が人力でJust Walk Outの機械学習モデルに不可欠なビデオ画像へのラベル付けをしたり、AIだけで購入商品を識別できない場合には彼ら従業員が精算内容をチェックしたりしていたと報じています。

 複数の人がすぐ近くで同じ商品に手を伸ばしてマイバッグに入れたケースなどは、棚の重量センサーでどの商品を買ったか特定できたとしても、天井のAIカメラだけでは誰が買ったか判別するのは難しいだろうということは、2018年に筆者が初めてAmazon Goを体験した時から予想していました。

 その後、さまざまなパターンを研究した結果、人の目で検証するオペレーションが存在することも、筆者と同行していたメンバーは想像していたので、このニュースそのものに驚きはありませんでした。

 むしろ、この複雑な仕組みをAmazon Goのようなコンビニエンスストア業態よりも圧倒的に店内が広く、来店客数も多く、滞在時間の長い食品スーパーマーケット業態で取り入れたことが、筆者には予想外でした。

筆者は2022年に米国で大型スーパーサイズの店舗をJust Walk Outで運営する様子を体験した

 Amazon Goは品ぞろえの弱さに加えてコロナ禍もあり、当初の予定ほど出店できていませんでした。大型の食品スーパーマーケットにJust Walk Outを導入し、そこで余ったハードと人的リソースを使って、AIの精度向上に欠かせない顧客行動データの取得をしていたのではないかと筆者は考えます。

 ところで、Amazonは前述の報道に関連し、4月17日に「An update on Amazon's plans for Just Walk Out and checkout-free technology(アマゾンのJust Walk Outとレジなしテクノロジーの計画に関する最新情報)」という文書を発表し、以下のように報道内容を否定しています。

 Just Walk Outが、遠くから見守る人間のレビュアーに依存しているという報道は事実ではない。これらの技術を支える基礎的なMLモデルを含め、ほとんどのAIシステムは、AIが生成したデータと実際のショッピングデータにアノテーションを付けることによって継続的に改善されている。

 当社のアソシエイトは、このラベリングとアノテーションのステップを担当しているのである。アソシエイトがレシートを作成するために買い物客のライブビデオを見ることは決してない。これは、人間のレビュアーが一般的に関与する、他の正確さを重視するAIシステムと変わりはないのだ。

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