デジタル技術を用いて業務改善を目指すDXの必要性が叫ばれて久しい。しかし、ちまたには、形ばかりの残念なDX「がっかりDX」であふれている。とりわけ、人手不足が深刻な小売業でDXを成功させるには、どうすればいいのか。長年、小売業のDX支援を手掛けてきた郡司昇氏が解説する。
スーパーのショッピングカートにタブレット端末が搭載された「タブレットカート」を導入する店舗が、日本国内でもじわじわと増えています。カートに取り付けられたスキャン機能の付いたタブレット端末で、来店客自らが購入する商品の登録作業を行い、カートもしくはレジで決済作業をする仕組みです。
前回の連載記事「万引は防げるか? セルフレジの発展系『Scan&Go』が伸び悩むワケ」では、自身のスマートフォンをレジ代わりに、セルフ会計ができる「Scan&Go」の大きな課題として、万引や意図せぬスキャン漏れなどの課題がある現状を紹介しました。
タブレットカートを導入している小売業各社は、これらの課題をさまざまな手段で解消しようとしています。今回は、九州に本拠を置くスーパー、トライアルの「スマートショッピングカート」や、AmazonのAIレジカート「Amazon Dash Cart」など国内外のタブレットカートを紹介します。それぞれ、どのような特徴があるのでしょうか。
20代で株式会社を作りドラッグストア経営。大手ココカラファインでドラッグストア・保険調剤薬局の販社統合プロジェクト後、EC事業会社社長として事業の黒字化を達成。同時に、全社顧客戦略であるマーケティング戦略を策定・実行。
現職は小売業のDXにおいての小売業・IT企業双方のアドバイザーとして、顧客体験向上による収益向上を支援。「日本オムニチャネル協会」顧客体験(CX)部会リーダーなどを兼務する。
公式Webサイト:小売業へのIT活用アドバイザー 店舗のICT活用研究所 郡司昇
公式X:@otc_tyouzai、著書:『小売業の本質: 小売業5.0』
タブレットカートがScan&Goと大きく異なるのは、カートに各種センサーを付けることで、スキャン漏れを防いでいる点です。
トライアルグループは、九州エリアを中心にスーパーセンターの形態で事業を展開しています。スーパーセンターは、食料品や衣料品、住居品などをワンフロアで提供し、1カ所のレジで全商品を購入できる小売の形態です。
同社では「スマートショッピングカート」と名付けたタブレットカートを自社開発しています。スマートショッピングカートでは、カートに組み込まれたタブレットとスキャナーを利用して買い物します。
このカートは主に次の3つの機能を備えています。
1) スキャンした商品の合計金額をリアルタイムで把握できる
2) 関連商品のクーポンを提示できる
3) オリジナルのプリペイドカードに事前に現金をチャージしておくことで決済できる
買い物行動は大きく2つに分けられます。計画購買と非計画(衝動)購買です。店頭での非計画購買を促すことは、客単価の向上に直結し、同時に顧客体験の向上にも寄与します。
小売業界では、人手不足の中で、顧客自身がセルフスキャンするシステムが注目されています。しかし、スマートフォンでのスキャンは手元に集中しないと難しいため、棚から目を逸らすことになります。このため、純粋な衝動購買の機会を減少させる可能性があります。
また、スマートフォンを持つと手が塞(ふさ)がるため、買い物かごやカートを使う客が少ない低単価業態での利用には不向きです。
トライアルのスマートショッピングカートは、これらの課題に対応しています。固定された専用のバーコードスキャナーは、汎用のカメラを利用するスマートフォンよりも使いやすく、手が塞がりません。さらに、スキャンした商品の関連商品を表示するレコメンド機能や、レジカート限定のクーポン配信などもあり、非計画購買を促進します。また、カートを使用することで手が空き、商品数が増えても重く感じないため、持続して買い物でき、客単価が2割程度向上する可能性があります。
店内でのセルフスキャンで重要な課題となる万引や、意識しないスキャン漏れの防止については、2点の工夫がされています。
まず、カートに組み込まれたセンサーによるスキャン漏れの検知機能です。顧客が商品をスキャンせずにショッピングカートの収納部に入れると、このセンサーが反応し「商品のスキャン忘れはありませんか?」というアラートを表示します。このようにして、無意識のスキャン漏れや意図的な万引の減少を狙っています。万引については抑止効果を期待する程度ですが、無意識のスキャン漏れについては効果的であると考えます。
もう一つは、買い物の最終段階で行われる店員によるチェックです。顧客が購入したい商品をすべてスキャンし終えた後、レジカート専用のゲートに向かい、レジ担当スタッフのチェックを受けます。このチェックは、買い物かごの中身と登録された商品の内容が一致しているかを確認するためのものです。
初期のオペレーションは購入点数を全て確認していましたが、その後、顧客ごとに店員用画面にチェック個数が表示されることで、数秒で完了するようになりました。プリペイドカードは顧客ごとのユニークなIDが振られるので、その時の買い物内容だけでなく、過去の購入履歴なども計算に入れながらチェック個数を設定しているのではないかと推測します。
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