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カビ騒動で「株価30%超下落」から半年……ベースフードはなぜ今“急成長”しているのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」

» 2024年05月10日 11時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 今からおよそ半年ほど前、ベースフードが大規模な自主回収騒動を引き起こしたことを覚えているだろうか。

 同社の主力商品である完全栄養食、「BASE BREAD」にカビが発生しているというSNS上の口コミが問題の発端だった。2023年10月24日には問題のロットであった76万食を回収する事態となった。

 当時、企業側の対応が後手に回ったこともあり、消費者の信頼を大きく損なう形となった。その結果、同社の2024年度の業績予想は今回の損失も含めて20億円ほど下方修正することになってしまった。株価は当時、わずか1カ月で30%以上暴落する展開となっていたのだ。

 件の騒動から半年、同社の業績は実際にはどのように推移したのだろうか。

ベースフードの業績は好調に推移

 4月15日に発表されたベースフードの2024年2月期決算によれば、同社の売上高は148億7000万円と、前年の98億5000万円を49.7%も上回る成長ぶりとなった。

photo ベースフードの2024年2月期 通期決算説明資料より

 販路としては自社ECがトップの90億8000万円となり、次いで小売店やコンビニなどへの卸売が45億9000万円となっている。最近ではコンビニや小売店でもベースフードの製品を見かける機会は増えてきた。

 完全栄養食とは、人間が必要とする栄養素をバランス良く含んだ食品で、1食分で必要な栄養素を効率的に摂取できる食品をいう。完全栄養食は、大手食品メーカーも追随する動きを見せており、日清食品の「完全メシ」シリーズをはじめ、特に忙しい現代人のライフスタイルに合致した新たな食事スタイルといってよいだろう。

 大手食品メーカーがコンビニやスーパーなどで完全栄養食の卸売を進める中、ベースフードは売り上げの6割程度が自社のECサイト経由で発生したものである点は注目すべきだろう。D2C体制を整えていることで中間コストを抑えることに成功しており、街では見かけない部分でひそかにベースフードは広がりを見せているといえる。

 また、同社の粗利率は、自主回収による損失を加味した上でも49.7%と非常に高く、「一食で必要な栄養素が摂取できる」という付加価値が価格決定において優位に働いていると考えられる。

 営業利益は9億円の赤字と、前年並みで推移したが、2025年2月期には1億6000万円の黒字転換を予想しており、広告宣伝費などの先行投資を回収するフェーズに入っていくと思われる。同社の成長を支える自社ECのサブスクが解約の流れにまでは至っていないことが大きかった。業績に対するネガティブな効果は限定的だったのだ。

それでも市場の評価は厳しい?

photo 同社Webサイトより引用

 しかし、市場の評価は依然として厳しい。ベースフードの株価は2023年11月の時点でただでさえ騒動を受けて30%下落し、460円台で推移していたが、直近では底値を割れてさらに20%近く下落しており、現在は374円で推移している。

 その背景には、ベースフード社の苦しい財務状況があるかもしれない。目覚ましい成長とは裏腹に、2024年2月期の純資産は前年比48%減少し、8億4200万円となった。それに伴い、自己資本比率は25.7%と、前年の45.4%から大幅に低下している。有利子負債は24年2月時点で5億円に達しており、有利子負債比率は59.38%に上昇している。

 日銀の金融緩和正常化に伴い、足元でも借入金利などの高騰も予想されている中、借入金に依存した財務体質では返済コストも上昇してしまう可能性がある。さらに、有利子負債比率がこのまま上がっていくと、増資による株式の希薄化、値下がりリスクも高まることが市場からイマイチ評価されていない理由とも考えられる。

 ベースフードのように、業績が好調に推移しつつも、依然として財務的な課題がある企業には、より戦略的な解決策が求められる。1つのアプローチとしては、広告宣伝費などの新規獲得投資と、黒字化のバランスをとり、より筋肉質な財務状況を作ることなどが挙げられる。また、増資のような株式の希薄化を伴わない、デット・エクイティ・スワップ(債務を株式に転換する)タイプの”借り換え”施策や資本増強を通じて、自己資本比率を改善することも有効だろう。

 カビ騒動を乗り越え、成長を続けるベースフード。復活の道を遂げるには、さらなる品質向上とブランドの信頼回復、そして、財務状況の改善も欠かせない。

筆者プロフィール:古田拓也 カンバンクラウドCEO

1級FP技能士・FP技能士センター正会員。中央大学卒業後、フィンテックベンチャーにて証券会社の設立や事業会社向けサービス構築を手がけたのち、2022年4月に広告枠のマーケットプレイスを展開するカンバンクラウド株式会社を設立。CEOとしてビジネスモデル構築や財務等を手がける。Twitterはこちら


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