人件費の合理性は重要だが、同時にタレントマネジメントのニーズへの対応をおざなりにしてはならない。
ジョブ型人事制度導入企業の実態を見ると、ライン管理職については、3つのタイプとも相応に定義され、適所適材の配置施策が進みつつある。しかし、専門職については、業種による濃淡も大きいが、ライン管理職と比べると取り組みが消極的だ。
まずはライン管理職からという優先順位は理解できるものの、専門職については概して課題が大きい。自社にとって不可欠な専門職ポジションを定義するところから始めなくてはならない企業が多くありそうだ。
また、一般職層については、管理職層にジョブ型を導入しても一般社員層には導入しないという企業が珍しくない。そもそも、日本の給与相場は、ほとんどの職種については職種よりも企業の業種や規模に左右される。その意味では職種別の職務給編成はあまり現実的ではなく、一般社員層の従業員にとってのジョブ型とは給与というよりもキャリア形成の問題と見るべきだろう。
この「従業員にとって」という部分は重要だ。昨今の若手人材は、「やりたい仕事が就職時点で決まっていて配属を約束しなければ入社しない」。さらに、「入社後も異動・配置先が希望に沿わなければ退職してしまう」「昇進・昇格のスピード感を重視する人も多い」との声を耳にすることが増えてきた通りだ。企業と従業員が「選び選ばれる」関係になった昨今では、一般職層のジョブ型は職務給よりも手挙げ異動施策を中心に据えて考えるほうがよさそうだ。一般社員層に限らず管理職層も含め、長期雇用の枠組みの中にある日本企業にとってのジョブ型はキャリア形成上のイシューだと捉えるべきだ。
ジョブ型人事制度や職務給に対する関心が高まっており、その背景には「人件費の合理性」の向上と「タレントマネジメント」推進のニーズがある。企業におけるジョブ型の導入は、大きく「グローバル志向型」「組織長厚遇型」「フレキシブル型」という3つの異なるアプローチに分類できるが、概してライン管理職に焦点が当たっており、専門職や一般社員層はおざなりといえなくもない。
長期雇用慣行下の日本企業におけるジョブ型制度は職務給の導入だけでなく、むしろ、従業員のキャリア形成やタレントマネジメントの観点から考えるべき課題である。
藤井薫
パーソル総合研究所 上席主任研究員
電機メーカーにて人事・経営企画スタッフ、金融系総合研究所にて人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム開発ベンダーにて事業統括を担当。2017年8月パーソル総合研究所に入社し、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『人事ガチャの秘密』(中公新書ラクレ)。
パーソル総合研究所は、パーソルグループのシンクタンク・コンサルティングファームとして、調査・研究、組織人事コンサルティング、タレントマネジメントシステム提供、人材開発・教育支援などを行う。経営・人事の課題解決に資するよう、データに基づいた実証的な提言・ソリューションを提供し、人と組織の成長をサポートしている。http://rc.persol-group.co.jp/
管理職とプロフェッショナル職 どちらを選べばより稼げる? 人事のプロが解説
幹部候補か、“万年ヒラ”か キャリアの分かれ目「30代以降の配置」を、人事はどう決めている?
「優秀でも残念でもない、普通社員」の異動に、人事が関心を持たない──何が起きるのか
人事異動のトレンド「キャリア自律のため本人・事業部門任せ」は、本当に正解? “適材”が先か、“適所”が先か
「その他大勢」の社員が“開花できる場所”はどこ? 非管理職層のタレントマネジメント入門Copyright © PERSOL RESEARCH AND CONSULTING Co., Ltd.All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング