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迷走する「日本版ジョブ型」 成果主義への転換だけじゃない、目的別“3つのタイプ”とは?(1/3 ページ)

» 2024年05月21日 07時00分 公開
株式会社パーソル総合研究所

この記事は、パーソル総合研究所が4月1日に掲載した「日本的ジョブ型をどう捉えるか」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などはすべて掲載当時のものです。


 ジョブ型人事制度や職務給への関心が高いが、いまだにそれらを取り巻く議論は迷走している感がある。そこで本稿では、ジョブ型人事制度の導入状況を確認するとともに、導入の背景は何か、「日本的ジョブ型」とは何かを整理し、今後の検討の方向性を考察する。

ジョブ型の関心増 背景は「人件費の合理性」と「タレントマネジメント」

 ジョブ型人事制度や職務給への関心が高い。パーソル総合研究所の調査(※1)ではジョブ型導入企業が18.0%であり、導入検討企業の39.6%と合わせて57.6%がジョブ型導入済・導入検討企業だ。日本能率協会の調査(※2)でも、ジョブ型の人事・評価・処遇制度を何らかの形で導入している企業が2割以上で、導入検討中の企業は4割台、合計すると6割を超える。

(※1)パーソル総合研究所『ジョブ型人事制度に関する企業実態調査』(※2)日本能率協会『当面する企業経営課題に関する調査―組織・人事編2023』

 ジョブ型の導入目的(複数回答)としては、パーソル総合研究所の調査では「従業員の成果に合わせて処遇の差をつけたい」が65.7%と最多で、「戦略的な人材ポジションの採用力を強化したい」(55.9%)、「従業員のスキル・能力の専門性を高めたい」(52.1%)がそれに続く。

 同じく、日本能率協会の調査では「役割・職務・成果を明確にし、それらに応じた処遇を実現するため」が74.6%と最も多く、「専門性の高い人材を育成・活用するため」「社員のキャリア自律意識を高めるため」が4割前後でそれに続く。

 2つの調査結果はほぼ同様で、仕事に応じた処遇を行い「人件費の合理性」を高めることをジョブ型の導入目的とする企業が多いということだ。そして、導入目的のもう一つの柱が戦略的人材の採用強化、専門的人材の育成・活用などの「タレントマネジメント」の推進である。

 ジョブ型人事制度・職務給の導入背景を図1に整理した。

 ジョブ型人事制度や職務給は、「人件費の合理性」を高めたいという企業ニーズによって導入が進められている。能力主義人事制度の年功運用による処遇のゆがみを是正したい企業は多い。

 能力主義人事制度の場合、特に、管理職層についてはゆがみが大きく、同一等級であればライン管理職も専門職も「そのどちらでもない人」も似たような基本給を支給されることになりがちで、職責や役割の重さと給与処遇の不整合を看過できなくなっている。

 また、雇用長期化の影響も見逃せない。60歳から65歳へ、さらには70歳への雇用延長が求められる中で、給与を仕事に応じて決めていく必要性が高まっている。

 ジョブ型や職務給が注目される背景にあるものは、人件費の合理性だけではない。ある面、それ以上に重要だと思われるものが、適所適材の採用・リテンション・配置など、すなわち「タレントマネジメント」上のニーズだ。これまで日本の給与相場は業種や企業規模、年齢による違いに比べて職種による差はさほど大きくなかったが、IT系など採用需給がタイトないくつかの職種では、他職種より高めの職種別給与相場が形成されつつある。

 そのような職種では、自社の標準的な給与水準では採用できず、リテンションもできない。また、多くの企業が経営環境の変化に対応すべく事業戦略やビジネスモデルの再構築を進める中で戦略的ポジションを担う人材の奪い合いが激化しており、人材確保のためには競争力ある給与の提示が欠かせなくなっている。

 加えて、社内でも、ポジションニーズに応じた若手人材登用の必要性が増すと同時に、若手人材の「自分で仕事を選びたい」という傾向が顕在化してきている。

photo 図1:ジョブ型人事制度・職務給の導入背景 出所:筆者作成
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