HR Design +

迷走する「日本版ジョブ型」 成果主義への転換だけじゃない、目的別“3つのタイプ”とは?(2/3 ページ)

» 2024年05月21日 07時00分 公開
株式会社パーソル総合研究所

日本のジョブ型人事制度の捉え方

 このように、ジョブ型人事制度と職務給が求められる背景には、人件費の合理性とタレントマネジメントの両面のニーズがあるわけだが、多くの場合、処遇論が先行しているように見える。

 労務行政研究所の調査(※3)によると、一般社員層では職務給導入企業・役割給導入企業がいずれも24.6%、管理職層では職務給導入企業が26.1%、役割給導入企業が44.2%である。

 ジョブ型人事制度を狭く定義すると「各ポジションの職務記述書を作成し、職務評価によって職務グレードと職務給を決める制度」ということになるだろうが、パーソル総合研究所の調査(※4)では、ジョブ型人事制度を導入しているという企業でも職務記述書を作成しているとは限らない。

(※3)労務合成研究所「基本給の昇降給ルールと賞与制度の最新実態」/『労政時報』第4054号(※4)パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」

 「職務記述書がないのであればジョブ型とはいえないのでは?」と考える向きもあろうが、「日本企業におけるジョブ型人事制度とは何か」という意味では、前掲のパーソル総合研究所の調査でも日本能率協会の調査でも「仕事に応じた処遇の実現」をジョブ型の主な導入目的としている企業が多い。その企業が自社の制度をジョブ型と位置付け、職務給や役割給を導入しているのであれば、それはジョブ型人事制度の一つの形であると捉えるべきだろう。

 ジョブ型人事制度を広めに定義すると、「職務給や役割給など、仕事基準の給与を基本給の主な構成要素にしている制度」ということになる。そうすると、一般社員層で5割、管理職層で7割の企業が既に“ジョブ型人事制度”を導入していることになる。

ジョブ型人事制度導入企業の3つのタイプ

 前掲調査(※4)で、職務給や役割給を導入している企業は3つのタイプに分類できることが分かった。図2は、その調査結果を要約したものだ。

photo 図2:ジョブ型人事制度導入企業のタイプ分類 出所:パーソル総合研究所「職務給に関するヒアリング調査」

 タイプ1「グローバル志向型」は、職務記述書を作成する狭義のジョブ型だ。手間をかけて職務記述書を整備し職務調査を行う一方、給与レンジは職務グレード間での逆転現象が起こりうる重複型の場合もある。先に向けても給与は重複型でよいと考えているわけではなさそうだが、給与序列よりも「職務記述書を起点にした説明可能な人材マネジメントシステムの整備」に優先度があるということだろう。

 タイプ2「組織長厚遇型」は、「グローバル志向型」とはかなり異なっている。「課長より部長が上、部長より本部長が上」という役職位序列ありきで、給与序列をそれにそろえようという強い意図がみられる。職務記述書は作成せず、給与は課長=50万円、部長=70万円、本部長=90万円というようなシングルレートの企業もある。ライン管理職と非ライン管理職との処遇差も明確だ。裏返すと、ジョブ型導入以前はそうではなかったということで、「処遇バランスの適正化」に優先度がある。

 タイプ3「フレキシブル型」は、名称の通り、柔軟に「職務給的要素の導入・強化」を行おうとする企業だ。ガチガチのジョブ型・職務給というわけではなく、給与面ではポジションに応じて大枠は決まるものの人事評価に応じたアップ・ダウンを重視するという意味で、成果主義的志向が強い。

 このように、3つのタイプは職務給や役割給を導入しているものの方向性が異なっており、「フレキシブル型」や「組織長厚遇型」の企業が、狭義のジョブ型である「グローバル志向型」を 《あるべき姿》と考えているわけではない。それぞれ並列・併存的な位置付けにある。

 広義のジョブ型である「組織長厚遇型」と「フレキシブル型」は、職務記述書を作らない、社命異動を重視しているなどの点からみて、「給与制度改革」の色合いが濃い。特に「組織長厚遇型」では管理職層に専門職の設定がない制度も散見され、人件費の合理性、すなわち職責と給与の整合性向上に特化した施策と見えなくもない。

Copyright © PERSOL RESEARCH AND CONSULTING Co., Ltd.All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR