一般ドライバーが自家用車を使い、有償で乗客を運ぶ「ライドシェア」が解禁した。東京・神奈川・愛知・京都の一部地域から始まり、運行時間と配車台数は地域ごとに限られているものの、5月下旬以降、大阪や福岡、札幌など8地域に拡大する見通しだ。
ライドシェア実施の背景にはコロナ明けのタクシー不足もある。こうした一般のインフラを利活用する仕組みを「シェアリングエコノミー」と呼び、宿泊業ではコロナ禍前から「民泊」として進んできた。外国人旅行者の数も戻ってきたことから、都内のビジネスホテルでは「1泊2万円」を超える需要過多が続き、民泊に注目が再び集まっている。
この民泊の世界最大のプラットフォームが「Airbnb(エアビーアンドビー)」だ。空き部屋などを貸し出したい「ホスト」と、宿泊先を探したい「ゲスト」を結び付けるデザインが特徴で、宿の掲載件数は全世界で770万件を超える。
コロナ禍が明け、民泊ビジネスはどうなっていくのか。シェアリングエコノミーの可能性をAirbnb Japanの田邉泰之社長に聞いた。
――コロナ禍前は、増え続ける外国人旅行者に対応するため、民泊の利用も進んでいました。それがコロナ禍で宿泊需要が急減したものの、コロナが明けたことで民泊への注目が再び集まっています。これからどうなっていくとお考えでしょうか。
京都をはじめ、一部地域ではホテルの値段が2倍以上になるところも出てくるなど、宿泊需要が再び高まっています。この需要の逼迫(ひっぱく)に対する一つの答えが民泊になるのではないかと考えています。今後もっと広まっていく可能性がありますよね。
活用方法も無限にあります。古民家の利活用もその一つです。古民家は残そうとするとその維持費だけでも地域の負担になります。古民家は人が使わないと建物が傷んでしまう部分もあります。宿泊施設として利活用することで、これらの問題を解決できます。
――需要が戻り、稼働率90%を超える施設も少なくありません。
企業が民泊に乗り出す動きも進んでおり、良品計画さんも今ホストになっています。千葉県の鴨川に物件を改修して、民泊施設として供用しているのですが、数カ月先まで予約がいっぱいだそうです。
宿泊需要の逼迫をはじめ、今日本が抱えている課題解決をAirbnbでは今後も進めていきます。Airbnbの取り組みを一つのきっかけとし、さまざまな資源を組み合わせて、問題を解決していきたいと考えています。実際に北海道の十勝清水町をはじめとする自治体と包括連携協定を結んでいます。
今われわれはこのパターンを学びながら作っている段階で、このパターンを複数作って白書化していきます。何ができるかを多くの人に知っていただくことで「うちではこう使いたい」という流れを生み出していきたいと考えています。
――民泊が2016年に始まったことで、シェアリングエコノミーの考え方が日本でも生まれました。一方で8年がたった今でも、日本では完全に定着したとまでは言えない気もします。この状況をどう見ていますか?
単純に認知の問題もあると思います。シェアサービスではスペースマーケットをはじめとする貸し会議室も日本で広まっています。これも、会議室目的だけで利用するのではなく、街中を歩き回って疲れた際の休憩スペースとして利用することも可能です。シェアリングエコノミーの考え方が生活の知恵まで浸透すると、変わる面もあると思います。
コロナ禍の際には、誰かと何かを共有するという考え方自体を、多くの人が敬遠した面もあると思います。実際にAirbnbでも、東京五輪のスポンサーの一社として日本市場に投資する予定だったのですが、中断してしまいました。やっとコロナが明けたので、もう一度力を入れて投資していきたいと考えています。
――民泊が始まった当初は、既存のホテル業界からの抵抗もあったのではと予想します。この辺は8年たって変わったのでしょうか。
それはわれわれの責任でもあると思います。今ではわれわれが少しずつお話をさせていただくことによって、解消に向かっていると思っています。Airbnbでは、民泊以外にもホテルや旅館もサイトに載っています。旅行者にとっては泊まりたい場所を探す目的では一緒ですから、われわれとしても相乗効果が生まれます。
Airbnbの利用者は旅好きで旅慣れている方が多く、滞在期間が長いんですよね。2〜3週間も旅行する方がいます。そうなると、ずっと民泊だけに泊まり続けるわけではなく、例えば温泉に入って食事もしたいから温泉旅館に1泊だけしようとか、そういった形の相乗効果も生まれます。
利用者にとっては同じ宿ですから、これは食い合いではなく新しいロケーションだと考えています。一緒に協業することによって旅行業界全体がさらに大きく成長していけると確信しています。
――日本では民泊が解禁する前の2014年に日本法人のAirbnb Japanが設立され、当初から田邊社長が指揮をとり続けています。10年たっていかがでしょうか。
設立当初から、われわれは日本にとっての存在意義を模索し続けてきました。当時は民泊を可能にする法律がなかったので、その話が多かったと記憶しています。
今では法律もでき、多くの自治体ともお会いしています。その結果、包括連携協定をはじめいい結果も続々と生まれているので、今のほうがアピールしやすい面もあります。ただ、われわれはこの日本でどう存在意義を打ち出していけるのか、この模索は設立当初から変わっていませんね。
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