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ChatGPTならぬ「MapGPT」とは? ハンドル握らず「音声指示」で自動運転は実現するか

» 2024年06月04日 08時00分 公開
[中西享ITmedia]

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 会社名が「Mapbox (マップボックス)」とあるから地図作りをしている会社と思いきや……。

 近い将来の自動運転を見据えて、音声で指示を与えることでハンドルに触らなくても運転できる車を走らせようとしている。そんな会社だった。

 生成AIで大流行の「ChatGPT」の車バージョンともいえる音声入力インタフェース「MapGPT」を一部の車に載せて、4月から自動運転「レベル2」の車を東京・大手町でテスト走行させている。

 Mapbox Japanの高田徹社長はヤフー出身の40代という若さ。「将来的には手放しで運転できるだけでなく、レストランの予約などあらゆる動作が音声でできる完全自動運転車にマップボックスのアプリを搭載し、新しい移動空間を提供したい」と熱く語った。

高田徹(たかた・とおる)氏 2007年にヤフー・ジャパンに入社、15年に BuzzFeed Japan社長、19年にZコーポレーション社長、20年4月からはソフトバンクの技術投資戦略本部長(現同社顧問)を務めつつ、同年5月からMapbox Japan(マップボックス・ジャパン)CSO。同年11月から同CEO(最高経営責任者)に就任。43歳。山口県出身。米国育ち

AWSで膨大なデータを処理 独自の方法で地図をアップデート

 マップボックスは2010年に創業した会社で、世界のクラウドシステムの中で最も多く利用されている米Amazon Web Services (AWS)の初期メンバーであるピーター・シロタ氏が代表を務める。地図上に走行中の道路の混雑、工事情報から行きたい店舗の空き状況などあらゆるロケーション情報を音声入力で得られるプラットフォームを、自動車会社や運送会社などに納めている。

 グローバルで4万ものさまざまな地図に関連したアプリを提供。そのアプリは7億人ものドライバーなどエンドユーザーからもたらされるテレメトリー情報を基に製作されている。高田社長は同社独自の地図作りについて以下のように説明する。

 「ゼンリンなど約150のパートナーから多種類の地図を調達し、加えて、カーナビやスマホ、スマートウォッチなどのインターネット経由で、車や歩行者がどのように道路を走行したかのデータ(34億キロ)が毎週送られてきます。この情報を基にAWSとMapboxの技術を駆使して高速に処理し、地図データを最新のものにアップデートさせます。実は国土地理院の発行する地図は最新のものが出るまでに2週間から2カ月も掛かり、ゼンリンだと6カ月後になります。しかし、わが社のテレメトリー情報を使えば、即座に最新のものができるので、道路工事中の情報などを、すぐに反映させられます」

 精度の高い3次元の立体地図を表示するため、毎日のように更新される航空写真からのデータも活用している。そうすることによって道路の幅、建物やビルの高さを把握でき、自動車のレーンごとの混雑情報など、よりきめ細かい情報を素早く提供できるのだ。自動車会社、宅配会社など顧客の要望に応じてカスタマイズしたサービスも届けられる。

 気象情報が欲しければそれを加え、店舗、観光ネタが必要ならそれを追加すればよいだけだ。

 テレメトリー情報の提供は、マップボックス側が提供料を払う場合もある一方、車の場合は提供料の分だけ車体価格から割り引くケースが多いという。

 いくら膨大な情報が集まってきても、効率的に処理できなければ集めた意味がなくなる。 「データを集められても、さばけない企業が多いです。マップボックスの強みは、この膨大なデータをさばけることです。世界中にあるAWSのデータセンターを使いながら、大量のデータを処理できるシステムをうまく利用できるからです。その後ろには優秀なエンジニアがいます」(高田社長)

 これだけ巨大なデータを動かしていながら、マップボックスの社員はグローバルでわずか700人、マップボックス・ジャパンは60人ほどで、半分以上がエンジニアだという。世界的に見ても例のない膨大なデジタルデータをリアルタイムで処理し、地図データとして表現する「技術集団」といえる。

以下マップボックスジャパン提供

「コンセプトが違う」

 同社が提供するMapGPTとは何なのか。簡単に言えば、車のマニュアルなどを読み込ませておけば、通常の運転操作だけでなく、車内の空調の温度調節、窓の開け閉めなどもすぐにしてくれる「賢い助手」が同乗していると思えばよい。

 既にマップボックスの地図技術はトヨタ自動車の一部車種や、BMWの「X-1(エックスワン)」という高級車種、EVのミニなどに搭載されているという。このMapGPT技術の応用もいくつかの自動車会社と話し始めている段階だ。高田社長はChatGPTとの違いを強調する。

 「われわれのMapGPTは移動に特化した車を動かすためのもので、ChatGPTとはコンセプトが違います。例えばChatGPTは応答するまでに10秒ほどかかることがありますが、MapGPTは車を運転しているため、安全上からも即座に応えなければなりません。このため、トンネルなどインターネットがつながらない環境でも、危険物を前方に発見した場合は、社内に搭載しているコンピュータに自動的に切り替わって瞬時にブレーキ操作をするなど、運転手が操作しなくても応えてくれるようになっています」

最後は大手プラットフォーマーとの競争

 将来の自動運転を見据えると、地図上にアップデートされた便利な情報をどれだけ盛り込めるかが決め手になる。高田社長は覚悟を決めている。

「最終的には、世界的な大手プラットフォーマーとの競争に行きつくのではないか。欧米ではこの大手プラットフォーマーが圧倒的に強いが、アジアはまだ戦える余地があります。アジアを担当していますので、負けないように頑張りたい」

 グローバルでの競争では、最後は技術力の勝負になりそうだ。高田社長は「完全な自動運転が実現するまで、(システムがアクセル・ブレーキ操作またはハンドル操作の両方を部分的に行う)『レベル2』や(決められた条件下で、全ての運転操作を自動化する)『レベル3』の段階でも、最新技術を活用しなければならないことはいくつもある」と指摘する。もはや「地図屋」ではなく最新のテクノロジーで生きる会社と言えそうだ。

 高田社長の経歴を見ると、最初に担当したのが、ヤフー・ジャパンでの検索エンジンの広告事業だ。その責任者を務めた。当時は検索エンジンという舞台で大手プラットフォーマーと戦ってきた。いまは同じプラットフォーマーと地図ビジネスで戦っている。「この大手プラットフォートフォーマーの独占を打ち砕くまで、負けられない」と意気込む姿は、応援したくなる。

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