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「2024年問題は完全に解決した」――三重県の中小運送会社が進めた、驚きの改革若手がどんどん集まる(2/3 ページ)

» 2024年07月18日 07時00分 公開
[秋山未里ITmedia]

昔は「稼げない仕事を後輩がやる」文化だった

 若手が多く集うカワキタエクスプレスだが、昔からそうした文化だったわけではない。

 「2009年までは歩合給で『稼げる仕事は先輩が、稼げない仕事は後輩がやる』『稼げないので若手が辞める』という悪循環がありました」と、川北社長は振り返る。

 トラックドライバーの業務は“職人技”といえる面が多い。効率的な運転はもちろん、荷積み・荷下ろしや荷主対応など運転以外の業務にも大きく実力の差が出る。ベテランが率先して難しい仕事をこなし、効率的に稼ぐのは一概に悪いことではないが、若手を適切に育てなければ退職者が増えてしまう。

 「2010年度に新卒採用を開始したことをきっかけに月給制を取り入れ、時間外手当も払うようになりました。残業を減らして短時間でなるべく売り上げを上げるために、長距離ではなく短距離中心に変えて効率よく稼げるようにしています」

 カワキタエクスプレスがある三重県には、周囲には自動車メーカーをはじめとする製造業が多く、地元の高校を卒業して就職する人のロールモデルはそうした大企業の工場に勤めることだ。それらの製造業と肩を並べられる給与水準を目指し、奮闘しているという。

 「高卒採用のため、高校に貼り出すフォーマットは大手企業でも中小企業でも同じです。高校生が選ぶ基準は『休みが多いか』『給料が高いか』『ボーナスは多いか』といったもの。そうした項目で、大手企業と同じ土俵に乗りたいです」

カワキタエクスプレスの代表取締役社長、川北辰実氏

 現在、基本給はおおむね肩を並べられている。ただ、製造業には賞与が給与の6カ月分出るという企業も少なくない。川北社長は社員にも直々に「業務を効率化して利益を出すことで、賞与をなるべくその水準に近づけたい」と説明しているという。

DXにおいて、一番大事なのは「風土」

 効率的に働き、魅力の高い給与を実現するために欠かせないのが、社内の業務フローをアップデートすることだ。

 川北社長はDXの重要性について「自動になればいいというものではなく、本当に効率よくなる部分から手を付け、管理するためにデータを取り、次の効率化につなげる必要があります」と話す。

 「車両台数15台くらいのときから、自社システムの構築のために1000万円ほどかけるなど、ITにはお金をかけてきました。その際は、PC画面上のアイコンをマウスで動かすことで使える配車システムなどを自社開発しました」

 トライアンドエラーを繰り返す中で、気が付いたことはやはり一番大切なのは風土づくりである、という点だった。

 「難しいのは、使う人がシステムに慣れるかどうかです。誰かITが分かっている人が伴走しないと、浸透が難しい。他社の事例を聞く際も、スマホ入力の勤怠管理一つとっても、スマホが使えない人が多いという話をよく聞きます。ただ、当社の場合(若い社員が多いので)それがハードルではない。こういうことを加味すると、やはり一番大事なのは人材育成と風土づくりなのだと思います」

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