感情検索をする若者の意識について、博報堂若者研の学生研究員とディスカッションをする中で3つのキーワードが見えてきました。
1つ目のキーワードは「自分を知りたい」。
「おごられる 嫌だ」「どうしようもなく人と話したい」など自分の中にぼんやりとなんとなく感じていること。あるいは「誕生日を祝われたいけど祝われたくない」など自分の中に相反する感情があって、うまく整理できていないこと。「モテるの嫌」など他人に話しづらいこと。
また、「感情移入し過ぎる つらい」など、自分の心の中をより深く理解したい、ぼんやりしているけれど気になる自分の感情を検索しているものを「自分を知りたい」というキーワードでまとめました。こうした行動について、学生に意見を聞いたところ、「はっきり分からない、なんとなくある自分の感情を探りたい」という気持ちがあるとのことでした。
実例を見ると、比較的ネガティブな感情が多いのですが、それをいきなり他人に話す前に、自分の中で反芻(はんすう)しているような様子が見られます。検索をすることで、自分以外にも同じようなことを考えている人が見つかるかもしれない。そのような行動を通して、解像度を高めながら、自分の中にある気持ちを探っていきたいということかと考えられます。
ある学生からは、「Webを壁打ち相手として、言語化すること、モヤモヤしている気持ちをはっきりさせることを手伝ってもらっているような感覚」という発言もありました。
2つ目のキーワードは「他人を知りたい」。
これは「高齢者を大切にする 理由」など、あるテーマについて他人の考えや価値観の背景を深掘りしたい時に検索していると思われるものです。
「子どもを作らない理由」「高級車に乗る人の心理」など、自分とは異なる価値観かもしれないけれど、そのような行動をしている人のことを知りたいと思い検索する場合や、「マッチングアプリを使う理由」「ありがとうと言われるとうれしい理由」など、自分が感じていることやとっている行動について他人との意見を見てみたいと考えて検索する場合などがあります。
興味深いのは、「高齢者を大切にする理由 分からない」「高級車 なんで乗るのか?」という批判する意図ではなく、分かりたいという気持ちから検索している言葉に思える点です。あくまでフラットに「なぜこういう風に考えて、行動をしているのか知りたい」という動機から検索をしている様子が見られます。
学生研究員の意見としては、「自分にはない他の人の感情を理解したい」もしくは「自分が考えていることを他の人はどう思っているのか知りたい」などの声がありました。他人の感情を検索することで、自分との違いや共通点を探っていきたいという思いがあるようです。
「SNSの浸透によって社会の分断が進んでいる」「お互いのことを理解しようとしない人が増えている」などの言説が語られがちな昨今ですが、こうした若者の行動からは、お互いに無関心で壁をつくっているのではなく、冷静になって価値観の異なる他人の考えや行動の背景を探ろうとする様子が見えてきました。
3つ目のキーワードは「ギャップを知りたい」。
これは、主に自分の感情が他の人に言ってもいいぐらい普通の感情なのか確かめたいという気持ちからの検索です。こうした検索行動をしている若者たちは、家族や友人に相談することが出来ないというわけではなく、相談する前に他人に話していいことなのか確かめたいという気持ちがあるようです。
学生研究員の意見として、「人に話す前に自分の感情がみんなにもあるのだという安心感が欲しい」「友達だとどこまで踏み込んでいいのか分からない。忖度のない意見を知りたい」という声がありました。友人に相談する場合は、本当のところはみんなはどう思っているのだろうということを事前に探った上で話すようにしているということでした。
これまで若者の間に浸透している感情検索の実態について見てきました。それでは、なぜ、今若者の間でこのような検索行動が広がっているのでしょうか? 背景にある理由として考えられる社会の情報環境や価値観の変化について、学生研究員との対話の中から3つのポイントが見えてきました。
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