この記事は、博報堂が運営する“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信が2024年3月5日に掲載した「「感情検索」から見えてくるZ世代のリアル 自分、他人、社会との関係性 博報堂若者研究所×ヴァリューズ 共同研究レポート後編」に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。
私たちは若者の検索行動を調査する中で、自分の内心で漠然と感じている感情を検索するという興味深い行動を発見しました。こうした行動を「感情検索」と名付け、若者の新しい情報探索行動として、行動の実態や背景にある価値観について探求しました。
「なぜ、若者は感情検索をするのか?」
本稿は、「感情検索」をテーマに、学生研究員の若者と一緒に未来の暮らしを考える博報堂若者研究所(以下、博報堂若者研)とWeb上の行動ログデータから生活者のニーズを読み解くヴァリューズの共同研究の内容をまとめたものです。
前編では、「感情検索」の背景にある若者の意識について、実際の検索データを活用しながら、学生研究員とのディスカッションを通して、掘り下げていきました。
後編は、「感情検索」についての共同研究の結果を踏まえて、「これから若者の情報行動はどこへ向かうのか?」「企業はそんな若者たちとどのように向き合うべきか?」「若者たちが求める『多様性を認め合う社会』とは?」──の3つのテーマについて考察します。
※本記事は共同研究の結果を踏まえて実施したヴァリューズ社主催セミナーの内容をもとに再構成しました。以下は、登壇者4人の対談の内容です。
<前編:「おごられる 嫌だ」「感情移入し過ぎる つらい」 若者が“感情”を検索する深い理由>
砂原: 私は1998年生まれで今年25歳、いわゆるZ世代の人間なのですが、「分からない」をなくしたい、全てを「言語化したい」という話には深く共感します。私の知人の中にも、「うたよみん」というアプリを使って、短歌をXに投稿している人や、Googleカレンダーのメモ欄に自分が読み返すための日記を書いている人がいて、そうした行動から、自分が日々考えていることや感じていることを言語化したいという強い気持ちを感じます。
では、彼ら彼女らはなぜ言語化することに強い関心を持っているのかと考えると、それは「自分らしさ」に真摯に向き合っているからではないかと思います。「自分らしさってなんだろう?」ということを言語化して理解していくことで、自分らしいライフスタイルを決めたい、自分らしい意思決定をしたい、自分らしい豊かな人生を生きたいという思いがあるのではないかと感じました。
また、言語化の過程については、今回のメインテーマであるWebでの検索以外にも、自分の中で内省をすることや、人に相談するなど、さまざまな手段を使い分けていることが印象的でした。
岩佐: 同じく、若者たちが、自分の中の分からないものに対して真摯に向き合いたいという思いを持っていることを感じていました。
また、そこへの向き合い方として、「自分には見えていない自分らしさが他の人から見えているかもしれない」という話をしてくれた人がいました。Instagramの投稿について、以前は自撮りの写真が多かったのが、最近では他撮りの写真を載せることが多いという話もあります。自分らしさを捉えるために、他人の視点を通して自分自身を見つめなおしたいという思いがあるのかもしれません。
ボヴェ: 情報行動という点ではメディアによる違いも大きいと考えています。
例えば、noteでは比較的他者の反応を気にしないで素直に自分の感情を吐露している一方で、Xでは他者から反応をもらうことが前提となっているため問いかけるような文体になるなど。今後、ChatGPTなどの生成系AIが私たちの生活に浸透した際に、人々の情報行動がどのように変化していくかというのは、非常に興味深いテーマだと思っています。
今年、爆発的に広がったChatGPTは、知りたいことを対話形式で検索できることが大きなポイントとなっています。自分の中で問いや求める答えが曖昧なものでもAIとテキストをキャッチボールする中で明確になっていく。こうした技術がこれからどんどん進化をして、さまざまなサービスの中に組み込まれていくと、自分を知ることや分からないものを言語化するということについて、生成系AIと共に取り組むというのが当たり前になる社会もそう遠くないと思っています。
小幡: 前回の共同研究でも、若者がメディアの癖を理解しながら上手に付き合っているという話がありました。今のお話は、若者がnoteやXの違いや癖を理解しながら、うまく使い分けているとも言えると思いました。そこに生成系AIが入ってきた時に、情報行動にどのような変化が生まれるのか。こちらは是非、今後のテーマとして考えていきたいと思います。
岩佐: 企業が提供する商品やサービスがどんどん個別最適化していってそれぞれに合ったものをレコメンドしていくという流れはこれからどんどん進んでいくと思います。
一方、若者の視点に立つと「あなたはこの型ですよ」と新しいカテゴリーに基づいて型を提案され続けることに違和感があるという声もありました。背景を考えると、一つは分人主義のように、「自分の中にさまざまな側面がある」と捉えていると、一つの型を提示された時に、「本当にこれでいいのだろうか?」と疑問が生まれるということ。もう一つは、世の中や自分自身を流動的なものとして捉えていて、「未来の自分は変わるかもしれない」と思っているということではないかと。特に若い世代になるほど、未来に変わる余地も大きくなります。
そのため、企業が商品やサービスを開発してマーケティング活動を行う際には、「あなたにはこれがおすすめですよ」ということを完全に決め切ってしまうのではなく、若者自身が自らの意識で選択できるような仕組みをつくることが重要だと考えています。
砂原: 私も賛成です。確かにアルゴリズムや診断などを元に個人に最適化されたものをレコメンドするというコミュニケーションが増えてきているという実感があります。その上で、重要なのは、提案が押しつけではなく、自分の意思で選んだと思える余白があることだと思います。提案の中に選択の余地があることや、提案に至ったロジックが明確に開示されているなど、最終的に受け手が提案内容を納得感を持って選べる状態になっていることがポイントだと考えています。
小幡: 今回の共同研究の中で、一人一人の個性が大事、異なる多様性を尊重していくという価値観の「骨肉化」というキーワードを出していただきましたが、私は、すごく秀逸な表現だと思いました。「多様性を認めることが大事」という話は、ずっと言われ続けてきたことだと思うのですが、そうした言葉を聞く際の自分の意識を思い返してみると、これまでは、自分はマジョリティーの立場にいるという前提で、「違いのある人のことも認めていこうよ」という受け止め方をしていた人が多かったのではないかと思います。
ですが、若者の声を聞くと、最近の社会はそこから一歩進んでいるように思います。一つのものさしで自分をマイノリティー、マジョリティーだと捉えるのではなく、先天的な属性だけでなく、価値観や考え方など、さまざまな視点から自分を捉える中で、自分も何らかのマイノリティーの当事者であるという意識を持ちながら、異なる性質を持つ人たちのことを理解して受け入れていく。そのような意識で真の多様性を体現した社会を若者たちはこれからつくろうとしているのではないかと思いました。
ボヴェ: 本当にその通りだと思いました。
数年前あるアナウンサーの「他人には他人の地獄がある」という言葉が若者を中心に大きな共感を呼びました。今の若者の間では、一見華やかな世界にいる人や恵まれているように見える人でも、自分には理解出来ない苦しみを抱えているかもしれないという感覚を前提として持っている人が多いように思います。
自分自身と真摯に向き合いながら、そのことの難しさや苦しさを受け止めつつ、自分のことも他人のことも大事にしようとする若者たちは、ある意味、未来の社会を見据えて進化していると考えることができるのかもしれません。そうした若者の姿を見ていると、社会や企業が声高に叫びがちな「多様性」や「個性の尊重」ということを一歩踏み込んで本質的なものとして捉えているのではないかと思います。
普段からまわりにいる人を褒めることや、良いところを伝えてあげることなど、自然にお互いを尊重しあい支え合う姿勢、お互いをケアし合うという行動は、私をふくむ上の世代にはなかなか見られなかった光景です。
一方で、ミドルエイジとなる上の世代の人間こそ、孤立やミドルクライシスなどが問題になるなど、自分をケアすることや、他者とケアし合うことが重要なテーマとなっています。今回の研究を通して改めて、若者の行動や考えを理解することは、こうした私たちの抱える問題を解決する手掛かりと未来の社会を生きる上でのヒントが見えてくるのではないかと思いました。
<前編:「おごられる 嫌だ」「感情移入し過ぎる つらい」 若者が“感情”を検索する深い理由>
株式会社ヴァリューズ
アシスタントマネジャー/マーケティングコンサルタント
新卒でヴァリューズに入社しマーケティングコンサルタントとして製薬・食品・不動産など、さまざまな企業に対してマーケティング支援を行っている。
学生時代には、弊社オウンドメディアにてマーケターへのインタビュー記事・学生視点での業界分析記事を執筆。
株式会社ヴァリューズ ソリューション局
データアナリスト
新卒でヴァリューズに入社。データアナリストとして、メディア・家電・美容など、さまざまな業界のマーケティングリサーチを行う。
現役Z世代による”Z世代の行動データ”分析ラボ「Gen-Z調査隊」の一員として、Z世代や若者に関する自主調査も実施。
株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン
イノベーションプラニングディレクター/若者研究所 リーダー
法政大学社会学部社会学科卒。2007年(株)博報堂に入社。マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事した後、2010年より博報堂ブランド・イノベーションデザインに加入。ビジネスエスノグラフィや深層意識調査、未来洞察などさまざまな手法を用いて、ブランドコンサルティングや商品・事業開発の支援を行っている。
2012年より東京大学教養学部「ブランドデザインスタジオ」の講師、大学生のためのブランドデザインコンテスト「BranCo!」の運営など、若者との共創プロジェクトを多く実施し、2019年より若者研究所リーダーを兼任。
株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン
イノベーションプラニングディレクター/若者研究所 研究員
デザイン・リサーチ、ブランディング、グローバルプロジェクトマネジメントなどの経験を生かし、機会発見から実装までを探索的な視点で支援している。学生向けブランドデザインコンテストBranCo!の主催や、若者研究所としての研究活動も行う。
現職以前は一般社団法人i.clubにて、高校生向けイノベーション教育プログラムの開発・運営、地域資産をてことした食品の開発・販売に従事。
※部署・肩書は当時のもの
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