確かに、トヨタの日本経済への影響力はハンパではない。野村総合研究所によると、2019年の自動車生産(付加価値ベース)が名目GDPに占める比率は3.17%だという。国内シェアの半分を握るトヨタが日本から去れば、GDPが下がることは容易に想像できる。
さらに、地域経済も打撃を受ける。約7万人の従業員が国外に流れるだけではなく、自動車産業は裾野が広いので関連企業、下請け企業などもトヨタを追って海外に軸足を移す。もちろん、トヨタに関わるすべての人が移転するわけではないが、「産業の空洞化」は避けられないだろう。
しかし、だからといって、「トヨタが日本を見捨てたら日本人がもっと貧しくなる」というのはさすがに飛躍している。データに基づく論評とは言い難く、「なんとなくこんな感じじゃね?」的なムードに流された盛った話だと言わざるを得ない。
日本人が貧しいのは、先進国の中でも「異常」なほどの低賃金だから、ということは今さら説明の必要がないだろう。では、なぜこんなに低賃金なのか。「トヨタが日本を見捨てたら日本人がもっと貧しくなる」というほどトヨタに依存しているのなら、今の日本人が貧しいのはトヨタにも責任がなくてはつじつまが合わない。つまり30年続く低賃金の原因は、トヨタの業績が悪い、もしくは賃金が安いからだということになってしまう。
ただ、ご存じのようにそんな事実はどこにもない。
トヨタの業績は極めて順調だ。日本の上場企業で初めて営業利益が5兆円を突破、春闘でも4年連続満額回答で、賃上げ幅は1999年以降で最高水準だという。アナリストが大好きな「トリクルダウン」というやつで、子会社や関連企業にもトヨタの賃上げが波及している、らしい。
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