北海道・根室の水産会社が、アーティストのGACKTとコラボを進めている。根室市に本社を置くオーシャンは、7月から美食ブランド「GACKT極シリーズ」を展開中だ。
花咲ガニや毛ガニ、北海シマエビ、ホタテの加工品といった海産物の他、阿寒ポーク、富良野メロンなども取り扱い、オーシャンが販売。価格帯が富良野メロンの4480円から毛ガニの1万2800円と、やや高めの価格設定にしているのが特徴で、高付加価値戦略による商品展開をしている。
GACKTは美食家としても知られていて、テレビ番組「芸能人格付けチェック」などでも食へのこだわりを垣間見ることができる。なぜ、根室の水産会社がGACKTとコラボすることになったのか。オーシャンの荒木和人社長に聞いた。そこには、地方都市の水産会社としての課題と苦悩があったという。
荒木和人(あらき・かずひと)株式会社オーシャン代表取締役社長。1977年、根室市生まれ。1998年 株式会社キタウロコ荒木商店に入社。2008年 常務取締役に就任。その後、2014年に株式会社オーシャンを設立する。2018年には株式会社キタウロコ荒木商店代表取締役社長を兼任しながらも、消費者にこだわりの海の恵みを届けるため、自ら世界各国へ足を運んで買付を行っている水産業者の課題の背景にあるのが、衰退の一途をたどる水産業界だ。オーシャンもB2Bの事業からB2Cへの事業転換に迫られた。水産庁の統計によると、1984年に1282万トンあった海面漁業の漁獲生産量は、2022年は392万トンと4分1以下に低下。生産額で見ても、ピーク時の1982年に2兆9772億円あった生産額は、2022年に1兆6001億円と、実に5割弱の減少となっている。
原因として、魚中心の食事から肉食など食文化の多様化、海洋環境の変化、水産資源の減少、過疎化や少子高齢化による漁業就業者の減少などがある。過疎化による影響は大きく、かつて水産で賑わっていた都市の多くの人口が減少している。その中で水産業者は地域に残る数少ない雇用先であるものの、労働環境がきついイメージなどから若者を中心に敬遠されているのが現状だ。この難局を、ブランド戦略によって打開していこうとする狙いがオーシャンにある。
水産品の加工を手掛け、オーシャンに商品を卸している関連企業のキタウロコ荒木商店の4代目社長も務める荒木和人社長は「当社には、品質に譲れないこだわりがあった」と話す。
「根室の漁獲高が年々減り続け、安定もしない中、当社の商品は品質で差別化する戦略を取っていました。付加価値をつけることによって、生産量が減っていても、高い収益を上げる狙いがありました」
キタウロコ荒木商店が特に徹底しているのが、温度管理だ。これによって、獲れた水産物の品質が多少低くとも、高い鮮度を保ったまま流通に乗せられるという。ところが、B2Bでは品質管理が評価されない課題があった。
「例えば干物一つにしても、ただ単に干して出荷する製品もあれば、そこから一手間二手間加えて出荷している製品もあります。漁獲量が安定しない中、当社の商品もこうした付加価値をつけて出荷していたわけですが、大量に仕入れるB2Bの世界だと、こういった手の込んだ取り組みを、なかなか評価してくれない。手間なしの一切れ300円の製品に対し、二手間かけた350円の当社の商品を売ろうとしても、『50円高いからいらない』となるわけです」
生産者として良い品質のものを届けようと機械に設備投資をしたとしても、それがかえって裏目に出てしまう。品質の違いを懸命にプレゼンしても、卸売をする水産業者は、縮小する業界もあってか「値段中心の意思決定が行われてしまう状況が存在する」という。
「突貫工事をしても、それなりの商品しかできません。僕らはいいものを作ろうとこれまでやってきていたので、だったら生産者の企業価値を高めるため、直接消費者に訴えていこうと考えたわけです」(荒木社長)
そこで荒木社長はキタウロコ荒木商店の関連企業として2014年3月、オーシャンを設立する。B2Cに特化しているのが特徴で、海産物の通信販売や、根室市のふるさと納税の返礼品を主に取り扱う。
荒木社長は「B2CはB2Cで課題があった」と振り返る。
「品質面で優れていたとしても、それが消費者に認知してもらえなければ買ってもらえません。当社はもともとB2Bでやっていたのもあり、根室の水産業者であること以外のブランドがなかったのです。いかに消費者にうまく伝えていくか、発信力を高めていくかが課題でした」
そこで近年進めているのが、さまざまなコラボ戦略だ。2024年には北海道日本ハムファイターズのオフィシャルスポンサーを務め、5月と8月には協賛試合も開催した。そしてさらに進めた取り組みが、冒頭で紹介したGACKTとコラボした美食ブランド「GACKT極シリーズ」というわけだ。
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