派遣社員は時給が高くても社会保険に加入していなかったり、交通費も支給されなかったりと総合的な待遇面がよくないのではと思われる人もいるでしょう。例外はあるものの、社会保険への加入や残業代の支給、有給休暇の取得などの労働法に関する義務は、派遣社員に対しては順守されている傾向にあります。
2020年4月の法改正以降は、大半の派遣社員に交通費が支給されるようになりました。背景として次の2つがあります。1つは、派遣法で細かくルールが決められており、労働局の派遣会社に対する調査なども厳しめに行われるからです。もう一つは派遣先、すなわち派遣社員を受け入れる側は、大企業や役所などの行政機関が多く、法令を順守することに敏感な組織が多いからです。
残業代の未払いや社会保険未加入の派遣会社を利用すると、派遣社員を受け入れている側の企業も労働局から指摘や指導を受ける場合があります。コンプライアンスに敏感な大企業や行政機関では、こうした状況を避けるため、派遣会社を選別する際に労働基準法や派遣法を順守している会社を選ぶようにしています。
肌感覚ですが、派遣社員は有期雇用契約のため雇用の安定性はないものの、中小企業の正社員よりも労働基準法で保護されているような印象があります。1分単位での残業代の支給や有給休暇の取得に関する相談は派遣会社の担当者から受けるケースが多いです。
では、派遣社員に支払う賃金の高騰に伴い、派遣会社の倒産は増えたのでしょうか?
2020年4月の派遣法改正前(同一労働同一賃金の導入)には、厚生労働省が定めた統計を見て「こんなに賃金を派遣社員に払ったら会社を維持できない」という言葉を口にする派遣会社の経営者もいました。賃上げに加え、新型コロナ感染症による経済活動の停滞などの逆風が吹き荒れたにもかかわらず、倒産する派遣会社が急増するといった現象は起きませんでした。
帝国データバンクの調査によると、確かに、2023年(1〜11月)には72社の人材派遣会社が倒産し、9年ぶりの高い数字となりました。しかし、人件費の高騰だけでなく、人手不足などの理由から正社員での就職のハードルが下がり、派遣で就業する人が減ったことも大きな要因だといわれています。
以前は出産で正社員を離れた女性が派遣社員として働くという構図が一般的でしたが、近年は産休制度の充実により会社にそのまま復帰することが当たり前となりました。この変化も派遣会社にとっては大きな痛手だと思われます。
しかし、予想に反して派遣会社の倒産件数が抑えられてきたのは、派遣料金の値上げ交渉がある程度成功したからだと考えられます。派遣会社は、派遣社員に支払う賃金にマージンを上乗せした派遣料金を派遣先に請求します。
「中抜き」と言われ、非難されることもある仕組みですが、このマージンがなければ、派遣会社は会社負担分の社会保険料を払ったり、会社運営の経費を捻出できなくなったりします。
派遣料金の値上げがうまくいったのは、派遣先が金銭的に余裕のある大企業や行政機関を中心としているため、受け入れられたのだと考えられます。
最低賃金1500円を実現するためには、人件費が増える分、売り上げを増やさなければなりません。
飲食店のようなB2Cのビジネスモデルであれば、メニューに載っている品目を値上げできるかにかかっています。B2Bであれば、価格交渉をすることになります。値上げや価格交渉が失敗に終わることもあります。常連客が離れてしまうかもしれないし、値上げ交渉が折り合わず他の業者に切り替えられるかもしれないからです。
そうなると事業が立ち行かなくなり、倒産する会社も増えるでしょう。ただ今後、人手不足がより深刻な問題になっていきますので、倒産した会社に勤めていた労働者の大半は、他の企業に再就職することはできると思われます。
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