CxO Insights

孫正義氏「大企業向けに最先端のAIを」 ソフトバンクグループとOpenAIが実現へ

» 2025年02月07日 12時21分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

ITmedia デジタル戦略EXPO 2025冬

photo

KDDIが経理のオペレーション改革にAIを活用し、得た成果とは。従来の業務プロセスから脱却を図る中で直面した課題、失敗と成功、今後の展望を語る。

【注目の基調講演】次なるステップへの挑戦:AIを活用したKDDIの経理オペレーション業務改革

 ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は2月3日、米OpenAIのサム・アルトマンCEO、英半導体設計大手Armのレネ・ハースCEO、ソフトバンクの宮川潤一社長兼CEOと「AIによる法人ビジネスの変革」と題したイベントに登壇した。

 孫氏は、OpenAIとSBG、ソフトバンクが、導入を希望する日本の主要企業専用にカスタマイズした生成AIなどを独占販売する合弁会社SB OpenAI Japanの設立に合意したことを明らかにした。「大企業向けに、最先端のAIを世界で初めて、日本から、われわれが始める」と力強く宣言した。

孫正義(そん・まさよし)1974年に福岡県久留米市の高校を中退して渡米。サンフランシスコの高校に編入学、1977年にカリフォルニア大バークレー校に編入学。1980年に日本に帰国してコンピュータ卸会社「ユニソン・ワールド」を福岡市に設立。1981年に共同出資で「日本ソフトバンク」を設立して社長に就任。1996年には米ヤフーと共同で「ヤフー」(Yahoo! JAPAN)を設立。2024年には米TIME誌が発表した「AI分野で最も影響力のある100人」の一人として掲載された。佐賀県鳥栖市出身。67歳(以下撮影:河嶌太郎)
サム・アルトマン 1985年、米シカゴ生まれ。スタンフォード大学でコンピュータサイエンスを学ぶが、中退。2005年にスマートフォン向け位置情報アプリを開発し、Looptの共同創業者兼CEOに就任。2012年にLooptを売却後、2014年にスタートアップ支援企業「Yコンビネーター」の社長に就任。2015年にOpenAIを共同設立し、2019年にCEOに就任した。2022年11月に「ChatGPT」を公開し、2023年3月には「GPT-4」を発表。2023年11月には取締役会によって解任されたが、従業員や投資家の反発を受け、わずか5日後に復帰した。孫正義氏とはAIビジネスを通じた関係がある。39歳

圧倒的なデータを持つ大企業へ訴求

 孫氏は1月21日にトランプ米大統領とサム・アルトマン氏、オラクルのラリー・エリソン会長兼CTOと、新たなAIインフラストラクチャを米国内で構築するため、今後4年間で米国のAIインフラに5000億ドル(約78兆円)を投資する「Stargate Project」(スターゲート・プロジェクト)について発表したばかり。2月3日に発表した合弁会社設立の発表は、日本を皮切りに最高性能の生成AIを展開する狙いがあり、孫氏は最新の生成AIを駆使して複雑なタスクを素早くこなしてくれる企業用最先端AI「クリスタル・インテリジェンス」を発表した。

 クリスタル・インテリジェンスのサービスの詳細は明らかになっていないものの、孫氏は「ソフトバンクグループとOpenAIの人材を投入して開発する」と説明。この日のイベントには日本の主要企業500社のトップ約1000人が出席し、ソフトバンクグループが進めようとしているAI事業への関心の高さをうかがわせた。

 孫氏は「クリスタル・インテリジェンスには、ありとあらゆるデータを入れて、企業活動の知恵となるようなスーパーインテリジェントな開発を目指したい。大企業は限定された分野で圧倒的なデータを持っているので、まずは大企業に導入してもらいたい。その後は、医療や教育など、あらゆる分野に広がっていく」と話し、その裾野の将来性に期待している。

 「クリスタル・インテリジェンスは企業の中核データの全てを読み込んでくれるので、これまでのようにシステムエンジニアがいちいち複雑なプログラムを書く必要がなくなる。社内の会議や交渉の場にもクリスタル・インテリジェンスが参加、コールセンターではオペレーターの仕事を代行してくれ、従業員の業務メールに加え、製品の仕様書も読み込んでくれる」と説明。社員の退職などがあっても知識が途切れることのない「長期記憶」も実現できるとする。

 社内のシステムの最適化にも役立つと指摘した。多くの企業ではすでに構築された基幹システムが稼働していて、ソフトバンクグループの場合、約2500のシステムがそれぞれ独自のデータベースを保有し、運用している。これらのシステムは数十年にわたり積み重ねられたもので、ソースコードの解析は困難だ。すでに開発者が引退し、意図を正確に把握できないケースも多く見られる。

 こうした課題に対し、クリスタル・インテリジェンスは既存のソースコードを全て解析し、プログラムの意図や機能を読み取り、最新の言語に置き換えてバージョンアップできると説明した。

ソフトバンクグループの場合、約2500のシステムがそれぞれ独自のデータベースを保有し、運用している

 最後に孫氏はイベントに参加した大企業のトップに向けて「大企業の皆さんは、このチャンスを生かしてほしい」と呼び掛けた。クリスタル・インテリジェンスは、企業の仕事を手助けするだけでなく、社員に代わって業務を迅速に、365日24時間こなしてくれるという。人手不足に悩む企業の現場にとっては早急に導入したいものだろう。

 ソフトバンクグループとしては、まずクリスタル・インテリジェンスをグループ各社に導入。そして、一般企業向けに、各企業向けにカスタマイズした専門の最先端AIを展開していく方針だ。

 AIエージェントが普及すれば、AGI(汎用人工知能)の実現が近づくことになり、孫氏は「SFのような物語の世界がついにやって来ようとしている。一気に開発を進めたい。AGI革命は、今後2、3年よりもっと早く実現する」と話した。AGIは孫氏が以前から描いていた世界で、その達成時期が早まる可能性が出てきた。

アルトマン氏「開発コストは下がる」

 この日の孫氏とトークセッションをしたOpenAIのアルトマン氏は、テクノロジー業界の天才起業家として有名だ。ソフトバンクグループは、2024年にソフトバンク・ビジョン・ファンド2を通じてOpenAIに5億ドルを出資し、関係を強化。今回はそれぞれの強みを生かす形で合弁会社を設立した。ソフトバンクグループからはソフトバンクが販売を担当し、OpenAIは開発を担う形で、AIエージェントの機能を持った生成AIを、世界に打ち出す方針だ。

 アルトマン氏は孫氏とのセッションで「生成AIの技術力は毎年10倍のペースで進歩しており、開発コストも半分程度に下がってきている。このため、高度化したインテリジェンスのリターン(報酬)は2次曲線で伸びている。(クリスタル・インテリジェンスの)開発には自信を持っている」と述べ、技術進歩により開発コストが下がることを強調した。

 この発言は、格安の開発費で1月20日に公開された中国版生成AIの「DeepSeek」(ディープシーク)を意識したものだ。アルトマン氏としては、中国製にはコスト面からも競争力があることを見せたかったようだ。

ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長(左)とOpenAIのサム・アルトマンCEO

「1業種1社」に限定

 孫氏は「クリスタル・インテリジェンスの登場は米国で発表したスターゲートの日本版だ」と指摘。日米両国で最先端のAIを開発する意義を訴えた。事業化するにあたり、ソフトバンクグループは約1000人の体制を組む方針を明らかにした。提供する対象については「マンパワーに限度があるので、提供するのは1業種1社に絞る」と説明した。

 孫氏が力説した「日本から世界初のもの」は、確かに久しく聞いたことのないフレーズだ。しかも日本が世界から遅れていると言われ続けてきたデジタルの分野で、世界の先頭を目指すという。

 企業用最先端AIを武器にして、OpenAIと組んで世界に打って出る姿勢は評価できる。一方で、米国のIT大手も黙って見ているはずがない。日進月歩の世界なので、必ず対抗するサービスを出してくる。その中で、ソフトバンクグループとOpenAIがその厳しい競争を勝ち抜いていけるかどうか。その真価が問われる。

OpenAIのサム・アルトマンCEO(左)とソフトバンクグループの孫正義会長兼社長

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR