大分市と大分空港を結ぶ新たな交通手段として、16年ぶりに再就航することになった超高速船「ホーバークラフト」。前編では「ホーバー復活」の理由と地域経済へのメリットについて紹介した。
さまざまな期待を背負って復活が決まったホーバークラフトではあるが、課題も抱えているようだ。
都市商業ライター。大分県別府市出身。
熊本大学・広島大学大学院を経て、久留米大学大学院在籍時にまちづくり・商業研究団体「都市商業研究所」に参画。
大型店や商店街でのトレンドを中心に、台湾・アニメ・アイドルなど多様な分野での執筆を行いつつ2021年に博士学位取得。専攻は商業地理学、趣味は地方百貨店と商店街めぐり。
アイコンの似顔絵は歌手・アーティストの三原海さんに描いていただきました。
ホーバークラフトの再就航に際して、地元の人々が最も不安に思っていることは「事故は起きないの?」ということだろう。
実は、今回就航するホーバークラフトは試運航中の操船ミスなどにより、軽微なものも含めて2025年2月までに大分県内で6回、そして英国で1回(試験中のファン破損)の合計7回も事故を起こしている。2024年12月には軽微な事故を発表・申告していなかったことも発覚。本格就航が近いゆえ、大きなニュースとなった。
試運航は運転技術の習熟を目的としたものであるため「ある程度の軽微な事故が起きてしまうことは止むを得ない」ともいえよう。しかし、県民からは「怖くて乗ることができない」という声も聞こえてくる。
以前のホーバークラフトの船は国内製であったが、今回の船は英国のグリフォン・ホーバーワーク社が新造したもの。それゆえ、故障の際には以前よりも修理に時間を要しそうだ。
現に、試運航中に事故で損傷したホーバークラフトのなかには、修理のためわざわざ英国に運び戻したり、また英国から部品を調達するために長期離脱せざるを得なくなったものもあった。
先述したとおり、以前の大分ホーバーフェリーは旧大分空港近くに大分側の発着点があったが、新たなホーバークラフトの大分市側の発着点は西大分港だ。西大分港から大分空港までのホーバークラフトによる所要時間は約30分。
既存の西大分港の大型フェリーターミナルはJR西大分駅から徒歩圏であるが、ホーバークラフトの西大分港はそれよりも北側にあり、駅から徒歩でのアクセスは難しい。大分駅までは約2.5キロ、連絡バスの乗り換え時間も含め、大分空港から大分駅までは45〜50分ほどで結ばれることになろう。これは以前運航されていたホーバークラフトも同様だった。
一方で、JR大分駅から大分空港までは空港高速バス「エアライナー」で約1時間、運賃は往復ネット購入すると片道1500円。ホーバークラフトの運賃は片道2000円(ネット購入)を予定しており、今後も高速バスは十分競争力を持つ。なお、西大分港から大分駅へと向かう際にはさらに連絡バスの運賃がかかるのであるが(200円程度の見込み)、大分県はホーバークラフトの利用促進のため大分駅までの連絡バスについては補助をおこない当面無料にすると発表している。
もちろん、ホーバーフェリーと違って空港高速バスならば途中に停車する停留所がいくつかあるほか、観光地である別府市内や由布院温泉はもちろんのこと、豊後高田昭和の町、宇佐神宮などにも直通する路線があり、いずれも大分市内を経由するよりも所要時間は短い。
また、大分空港から大分市を経由することになる大分県中南部の佐伯市や臼杵市でも、本数は少ないものの大分空港に直通する高速バス「佐臼(サウス)ライナー」があることから、少なくとも2度の乗り換えが必要となるホーバークラフトは所要時間の面でも有利とはいえないうえ、荷物が多い旅行者にとっては使いづらいであろう。
それゆえ、大分駅からの利便性が高い場所や、西大分港に直接マイカーやタクシーで行くことができる人以外は「ホーバーの恩恵は少ない」ともいえる。
実際、大分県内で数人に「これから空港に行くために日常的にホーバーを使うかどうか」を聞いてみたところ、一度くらいは使ってみたいとした人も居たものの「今まで通りバスの方が便利」という意見ばかりであった。
公共交通でのアクセスは今一歩かもしれないが、西大分のターミナルには大きなアドバンテージもある。それは「大型駐車場が併設されている」ということだ。
実は、大分空港の駐車場は多客期には満車になることもあり「駐車場を探しているうちに乗り遅れそうになる」という話も聞かれるようになっていた。
西大分ターミナルの駐車場は一部2階建てで、約450台が収容できる大規模なもの。もちろん、ホーバー利用者に対する割引(当面「ホーバー利用者は無料」となる予定)も設けられている。「マイカー→ホーバー→飛行機」は大分市民にとって定番の旅行スタイルの一つとなりそうだ。
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