本記事の内容は、コンタクトセンターの業務支援などを手掛けるテクマトリックスが2月21日に開催したイベント「テクマトリックス CRM FORUM 2025」の内容を要約したものです。
「従業員が顧客からの理不尽な要求に困っている」「カスハラが原因で離職者が増えている」「小規模店舗がカスハラにより廃業に追い込まれた」──。
サービス業や対人援助職に携わる企業では、カスタマーハラスメント(カスハラ)への対応が喫緊の課題となっている。カスハラを受けた従業員の多くは「仕事を辞めたいと思った」「出勤が憂鬱になった」(※1)と回答するなど、その深刻さは業種を越えて拡大している。
※1:パーソル総合研究所「カスタマーハラスメントに関する定量調査」より
そんな背景から、厚生労働省は2024年12月26日、企業に対策を義務付ける方針を打ち出した。
では、企業はこの問題にどう向き合えばよいのだろうか。
組織活性化支援などを手掛けるココロバランス研究所の代表理事で予防医学者・精神保健学博士の島田恭子氏は、3万3000人規模の大規模調査を実施し、カスハラの実態と効果的な対策について研究を進めてきた。本記事では、コンタクトセンターの業務支援などを手掛けるテクマトリックスが2月21日に開催したイベント「テクマトリックス CRM FORUM 2025」で島田氏が語ったカスハラの最新動向と、組織・個人双方の視点から考える具体的な対応策を紹介する。
島田氏は冒頭、日本人特有の心理的特性について言及した。同氏によれば、日本人は遺伝的に不安を感じやすい傾向にあるという。島田氏は、この“不安を感じやすい”傾向には、「セロトニン」と呼ばれる物質が大きな影響を与えると話す。
「セロトニンとは、簡単に言うと心身をリラックスさせる効果のある神経伝達物質です。しかし、このセロトニンをたくさん取り込めるか、あまり取り込めないかは、遺伝的に決まっています。日本人とアメリカ人の遺伝的傾向を比べた研究によると、日本人では約3%しかセロトニンを多く取り込める型がいないのに対し、アメリカ人では約30%がこのタイプなのだそうです。つまり、日本人は遺伝子的に不安を感じやすい傾向にあります」
また、日本の子どもの自己肯定感の低さも指摘する。G7の中で最下位であり、その影響が働く世代にも及んでいるとの見解を示した。
「日本の子どもたちの自己肯定感は、G7の中でダントツの最下位です。この状態が大人になっても続いたらどうでしょう? 働く意欲にも影響していますよね。経産省の調査でも、日本全国の従業員のやる気の低さは明らかです」
こうした背景も影響し、従業員がカスハラに直面した際の脆弱(ぜいじゃく)性が高まっている可能性がある。島田氏が実施した大規模調査によると、カスハラを受けた従業員の94.2%が「心身に長期的な悪影響があった」と回答したという衝撃的なデータが示された。
「2024年1月、サービス業の労働組合と協力して3万3000人の調査を行ったところ、カスハラを受けた時に『心身に長期的な悪影響はなかった』と答えた人はたったの5.8%でした。94.2%もの人が、何らかの長期的な悪影響を受けていたのです」
この結果は、カスハラが単なる一過性の問題ではなく、従業員の健康と組織の存続に関わる重大な課題であることを示している。
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