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NEC「世界10位からの挑戦」 CTOが「AIに勝機あり」と言い切った理由

» 2025年03月18日 05時00分 公開

 NECは、生成AIを含むAI関連で難関国際学会での論文採択数が世界10位だ。さらに上には米GoogleやMicrosoft、Amazonに加え、AlibabaやTencentといった中国企業がいるものの、米中以外の企業ではトップにつけている。

 NECは1980年代から1990年代にかけては世界の技術開発をけん引していた。現在も生成AIの開発では、少なくとも欧州の企業には決して遅れていない。年間の研究開発にも1300億円ほどを投資している。

 2025年中期計画の最後の年に、技術開発で米中の巨大企業群にどのように立ち向かうのか。【NECが技術ビジョンを持った理由 投資判断で重視すべき「未来価値」とは?】に引き続き、NECの西原基夫CTOに聞いた。

西原基夫(にしはら・もとお) 1985年東京大学工学部卒、同年NECに入社。ネットワーク製品、セキュリティ製品、インターネットシステム等の製品開発、研究に従事。カーネギーメロン大・計算機工学MS。2011年7月 システムプラットフォーム研究所長、2012年4月クラウドシステム研究所長、2016年に執行役員。2019年4月に執行役員常務 兼 CTO、2019年6月に取締役 執行役員常務 兼 CTO。2023年4に取締役 Corporate EVP 兼 CTO、2023年6月に執行役 Corporate EVP 兼 CTO

NECのAIには「明らかに勝ち筋がある」 その理由とは?

――NECはAIに関して、機械学習の難関学会採択数で世界10位につけています。今後の伸びしろや課題について、どのように捉えていますか。

 AIは投資の規模が課題です。米国のGAFAの投資規模は、すさまじいものがあります。そうすると技術の絞り込みや、技術についての大きなビジョンが重要になってきます。技術が今後どのように進んでいくのか。そこでGAFAが出す貢献の部分はどこなのか。そしてNECのような会社が貢献できる部分はどこなのか。それぞれを見定めながら進める必要があります。

 GAFAとはパートナーの関係にもありますので、どのように相互補完ができるかの考え方が重要だと思いますね。資金面では、どうしても規模に差があります。1980年代や1990年代の日本企業は、新しいものを何でもやってしまう部分がありました。ですが今では、その方法論では全く奏功しません。技術開発の方向性をきちんと見定めて、われわれが勝てると思えるところに絞り込むことが重要です。

――今はどこに勝ち筋があると思いますか。

 AIには明らかに勝ち筋があると思います。生体認証などバイオメトリクスの技術では、米国政府の認定団体であるNIST(米国国立標準技術研究所)で1位を取れているので、当社の確実な強みといえます。

 そして生体認証は裏を返すと画像認識の技術です。ですから画像認識技術が実は強いのです。生体認証や画像認識の特許の国際出願数が世界で一番多い企業はNECになります。この強みは今後も生かしていきたいですね。

 そしてAIエージェントですね。私はAIエージェントの可能性は、すごく高いと思っています。実はAIエージェントの技術は、大規模言語モデル(LLM)という文章処理技術が元になっています。

 LLMの研究開発はGAFAが重点的にやっていますので、われわれとしては彼らと被らない戦略で進めてきました。しかしGAFAのLLMの基盤となる技術は、当社にも実はたくさんあります。特に日本、米国、ドイツにある3つの研究所がAIに強く、この3研究所の技術を活用すると、AIエージェントの部分でわれわれの独自性が出せることに気付きました。

NECが描くAIエージェントの未来

――NECは「AIオーケストレーション」を2023年12月に打ち出しています。このAIオーケストレーションとはどういったものなのでしょうか。

 AIオーケストレーションというのは、複数のAIを並列処理する技術になります。1つのAIによって全ての問題を解けるわけではないので、画像処理をするAIもあれば、ロボットを動かす処理をするAIもあります。いろいろなAIモデルを連携できないと、柔軟なシステムは作れません。このように複数のAIをオーケストラの指揮者のように、タスクを分解して割り振る技術がAIエージェントでは欠かせません。ここの研究開発においては、当社の勝機があると考えています。

――AIオーケストレーションが進むと、どんなことが可能になるのでしょうか。

 例えば2024年にスペインのバルセロナで開かれたモバイルワールドコングレス(MWC)で、私がプレゼンした内容があります。そこではLLMを端末の中に入れて、私がバルセロナから日本に帰る時に、AIエージェントに「何をすればいいか」を聞くと、このAIエージェントが私のメールフォルダを参照した上で「家族へのお土産を忘れています」と注意喚起をしてくれます。その上で「お土産は明日乗る予定であるバスの途中のここで購入するといい」ということもAIが提案してくれるのです。

 この過程には、メールを見てチェックするAIと、バスのルーティングをするAIといったように、別々のAIが並行して動いています。これは一例で、いつどんなリクエストが来た時でも、複数のAIを適切に組み合わせる技術が、AIオーケストレーションになります。

NEC Innovation Day 2024でのデモ展示

――これは何年後ぐらいの未来を表したものなのでしょうか。

 こういう世界が2030年ぐらいには広がっていくだろうという見方があります。こうしたAIエージェントの概念は別に私だけではなく、世界中のトップのテクノロジー機関に所属している人たちが皆、言っていることです。彼らの多くは、AIエージェントによって新しい経済が作られると言っています。

 これが可能になると、AIによって仕事ができてしまいます。そうすると、AIを使う人がお金を稼げるようになるわけです。今まではB2B、B2C、C2Cといった3種類で主に経済活動をしてきました。ところがここにAIが入ると、B2A、A2A、A2Cといった新たな経済圏ができてくるのです。そうすると、AIを活用する人たちがお金を実際に稼ぐので、経済が上がっていきます。そういう世界が2030年ぐらいには広がっていくだろうと議論され始めています。

 2030年まであと5年です。それまでにとてつもない、いろいろな進化が生成AIで起こることになります。ここが、今後の技術開発の大きなポイントだと思っています。

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