APBのケースは結局、2024年に堀江氏が解任されてしまっている。現在も経営権をめぐって係争中だが、技術流出という点では、時すでに遅しといえるだろう。トリプルワンが事実上の筆頭株主になってから、APBには中国の通信機器大手ファーウェイの幹部が訪問するなどしており、技術はとっくに中国側に渡っている可能性がある。
米国の政府機関の元幹部は、筆者の取材に「中国企業は政府とも密につながっているため、政府や企業、個人の中国人が日本や米国から盗んだ技術は、政府から民間へ、また、民間から政府へと共有されて、最終的には『中国製』の技術であるかのように売り出される。しかも中国政府の助成金が入るため、企業は安価で販売でき、ダンピングのような状況で国際的な競争をゆがめる」と語る。
つまり近い将来、「中国が開発した」という触れ込みで全樹脂電池が売り出されるかもしれない。そうなれば、本家の技術の価値が失われる可能性がある。
さらに問題なのは、APBの全樹脂電池は、経済産業省が所管するNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)が75億円の助成金を提供してきたプロジェクトであることだ。潜水艦にも搭載できるため、軍事的にも使える技術だった。日本が失ったものは大きすぎる、ということになる。
このケースは氷山の一角だといえる。例えば2022年には、浙江省科学技術庁が支援する中国企業が、高い品質を誇るスピンドルを製造する日本企業に共同研究を持ちかけた。その中国企業は、日本企業から入手したスピンドルを人民解放軍の武器装備品の開発を担う浙江大学工学部に納入し、スピンドルそのものが流出してしまっている。
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