Visionalグループで、即戦力人材と企業をつなぐ転職サイトを展開しているビズリーチは、社内スカウトで人材流出を防ぐ新サービス「社内版ビズリーチ byHRMOS(以下、社内版ビズリーチ)」を提供している。1月28日に開いた記者発表会ではビズリーチ創業者でVisional代表取締役社長の南壮一郎氏らが登壇し、人材流出が新たな経営課題になる中、企業が働き手に選ばれるためのサービスとして社内版ビズリーチを開発したと説明した。
社内版ビズリーチは、社内スカウトを面倒な手作業を減らして可能にするサービス。ビズリーチが16年かけて蓄積したデータを学習した生成AIが、社内レジュメや社内ポジションの要件を自動生成し、高精度な人材検索とレコメンデーションを通じて社内人材と社内ポジションの最適なマッチングをする。「この約5年間、実現を目指してきたサービス」と話す南氏と、ビズリーチ執行役員でHRMOS事業部の小出毅事業部長に、社内版ビズリーチ開発の狙いと、Visionalとビズリーチが描く未来について聞いた。
南壮一郎 ビジョナル株式会社代表取締役社長。米タフツ大学卒業後、モルガン・スタンレー証券株式会社(現:モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社)の投資銀行本部に入社。2004年、楽天イーグルスの創立メンバーとしてプロ野球の新球団設立に携わる。2009年に株式会社ビズリーチを創業。採用プラットフォームや人材活用クラウド事業をはじめとした人事マネジメント(HR Tech)領域を中心に、M&A、物流、サイバーセキュリティ領域などにおいても、産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する事業を次々と立ち上げる。世界経済フォーラム(ダボス会議)の「ヤング・グローバル・リーダーズ」に選出。「EY ワールド・アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2024」 日本代表に選出。2020年2月に株式会社ビズリーチがVisionalとしてグループ経営体制に移行後、現職に就任。個人の活動として、2023年4月から米大リーグ・ヤンキースの限定的パートナー(オーナーの一人)に就任している
小出毅 株式会社ビズリーチ執行役員 HRMOS事業部事業部長。慶應義塾大学経済学部卒業後、2003年ヤフー株式会社に入社しインターネット広告商品企画に従事。2005年、株式会社リクルートに入社。2013年に新卒領域の営業部門長に就任し、営業戦略立案・組織設計・商品開発に従事。2016年、株式会社ビズリーチ入社。「ビズリーチ・キャンパス」を展開する新卒事業部の事業部長などを務め、2022年8月、HRMOS事業部事業部長に就任。2024年2月より現職。ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応えた南氏は、「社内版ビズリーチがHR産業のゲームチェンジになる」と力を込めて語った。
「この5年間くらい社内版ビズリーチの実現を目指してやってきました。実現できたのは生成AIのブレークスルーのおかげです。おそらく生成AIのユースケースになるでしょう。同時に、社内版ビズリーチのサービスは、日本の働き方に大革命を起こすゲームチェンジになると考えています」
ビズリーチは2009年の創業以来、国内有数の即戦力人材のデータベースから企業が必要としている人材をスカウトできるサービスなどを展開し、急成長を続けている。16年間ビズリーチで培ってきたデータを学習した生成AIによって、社内人材と社内ポジションの最適なマッチングを実現するのが社内版ビズリーチだ。
社内版ビズリーチを導入すると、全社員の経験やスキル、知識を可視化するレジュメが自動で生成される。同時に、社内ポジションの要件も自動生成され、ビズリーチで培った検索やマッチングの技術などを駆使することで、高精度の人材検索やポジションに合う人材のレコメンデーションが自動で行われるのだ。人事台帳に社員ごとのスキルを入力するなど、これまで行われてきた面倒な手作業は不要となる。
社内版ビズリーチの開発を指揮してきた小出氏は、社内版ビズリーチならではの検索機能を次のように説明する。
「法人営業の部署が社内から人材を探すときに、従来のサービスであれば社内レジュメのスキルに『法人営業』と書かれていなければヒットしませんでした。それが社内版ビズリーチでは、生成AIが『法人営業』だけでなく、『営業』も似たスキルと判断して検索します。その上で、スキルや経験などのタグがどれだけ合致しているのかをパーセンテージで表せます。『◯◯さんのような人』と検索すれば、◯◯さんに近い経験やスキルを持つ人を瞬時にマッチングできるのも大きな特長です。もちろん同じことは社外の人材に向けたビズリーチでもできます。マッチングの精度はどんどん進化させていきたいと思っています」
高精度なマッチングが可能になった背景には、南氏が冒頭で語ったように生成AIのブレークスルーがある。ビズリーチではここ数年、生成AIへの投資に力を入れてきた。生成AI関連の開発だけに取り組むチームの創設や、専任人材の採用を進め特許も取得している。生成AIに関する特許公開件数は、2024年7月の時点で社内外のレジュメ自動作成や自動求人作成、社内ポジション自動作成、社内タレント検索など年間で24件におよび、国内の企業では業界を問わず最も多い。南氏は特許を取得した技術によって、ビズリーチのマッチング精度も高くなったと話す。
「ビズリーチはもともと、比較的転職に慣れた人と、キャリア採用の少ない枠とをマッチングする玄人向けのマーケットプレースでした。ところが、コロナ禍を経て初めて転職を考える人の登録が増えてくると、職務経歴を記載するレジュメを書いたことのない人がほとんどで、レジュメの質が下がっていきました。また、企業も専門性や新規性の高い求人を書いたことがなく、結果的にマッチングの精度が落ちました。それが、レジュメの自動生成などの特許がとれたことで、スカウトを受け取る量が40%以上増えて、マッチングの精度も大きく上がりました。この技術を社内版ビズリーチにも活用しています」
ビズリーチが社内人材の活用に目を向けた理由は、企業にとって人材の流出が新たな経営課題になってきたからだ。南氏はその背景の一つが、転職市場の活性化だと指摘する。
「総務省が2023年に実施した調査によると、転職等希望者は10年連続で増加して過去最高の1035万人に達しました。また、日本経済新聞社が実施した2025年度の採用状況調査では、国内の主要企業の採用計画全体に占めるキャリア採用の割合が50.8%と、初めて新卒採用を上回っています。これは歴史的な転換期に入ったことを意味していて、この流れはもう止まりません。キャリア採用の比率はこれからも上がってくるでしょう」
さらに南氏は、転職希望者が増えたことに加えて、若手社員の考え方が大きく変わったことも、人材流出を深刻にしている背景に挙げた。
「コロナ禍を通じて、20代や30代の若手社員がいろいろなことに気付いたのだと思います。10年後や20年後に世の中のデジタル化がもっと進んだとき、どのようなビジネスモデルが成長して、どんなビジネスモデルが淘汰されるのか。働き方についても、自分が働く会社はコロナ禍に順応できたのか、できなかったのか。今までであれば『ここで働いていれば大丈夫』と考えられていた大企業でも、コロナ禍に対応できなかったことで社員が一気に流出し始めました。そのために中途採用が増える構造になっています。人材流出を経営課題としてどう解決していくのかが、これからの企業経営において大きなテーマになっていくことに大企業は気付き始めています」
小出氏は社内版ビズリーチの開発にあたって、50社以上の大企業からヒアリングを実施。その中で、30代前後の社員が辞めていることが大きな悩みになっていることが分かってきた。
「若手が辞めるのは大企業でも珍しいことではありません。ただ、30歳前後の脂が乗ってきた層が結構辞めていることに、強い危機感を持っていることが分かりました。入社後5年以上投資して育ててきて、ようやく一人前になったときに抜けられると、高度で専門的な知識が必要な業務も増えているので、30代の同じような人材を採用するのは難しいのが現状です。実際に30代は離職者の方が多い傾向がありますので、この世代の人材流出をどう防ぐのかが重要になっています」
社内版ビズリーチは、南氏と小出氏が「壁打ち」をしながら形にしてきた。開発の段階から大企業15社以上が協力。すでにキリンホールディングスをはじめ正式導入企業もあり、今後3年で1000社の導入を目指している。社内人材に目を向けることの重要性を南氏はこう表現する。
「多くの企業は採用活動は一生懸命しているのに、同じような情熱で社内の人材と向き合うことができていません。社員が『転職する』と報告してきたときに、『どこに転職してどんな仕事をするのか』と聞くと、自社でもできる仕事だったケースは少なくないでしょう。社内版ビズリーチを導入することで、グループ会社にどのような人材がいるのかも把握できますし、M&Aで参画した企業にどのようなスキルを持った人材がいるのかもすぐに分かります。企業が社員と向き合って、長く活躍してもらうために経験やスキルを生かせる仕事を提供し続けていくことは、企業からするとプラスでしかないのではないでしょうか」
Visionalが事業を拡大する際に重視する「事業をつくる人材」
サービス開始から4年で上場 トリリンガルラッパーCEOの「トップに食い込む交渉力」
「入社して10年頑張れ」が通じない若手 生成AIマッチングは適所適材を実現できるか?
NVIDIAフアンCEOが「1on1」をしない理由 “階層なき”組織運営は機能する?
メドレー社長に聞く「根回し不要」「ハイパフォーマーを集め、生かす」組織の作り方
「想像を超えたレベル」 レコチョク責任者がChatGPTに驚愕した理由
本田宗一郎が「すぐにやれ」と命じたこと ホンダ倉石誠司会長に聞くCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング