「SaaS is Dead」時代のバックオフィスAI戦略――マネーフォワードの挑戦(3/5 ページ)

» 2025年04月10日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

マネーフォワードのAI戦略「3つの柱」

 マネーフォワードのAI戦略は3つの柱で構成されている。第1の柱は「AIエージェント」だ。辻CEOは「SaaS is NOT dead」と力強く主張する。「UIの部分が入力不要になってAIエージェントに置き換わっていくが、裏側のロジックやデータはあまり変わらない。むしろロジックとデータがより重要になっていく」との見解だ。

 具体的には経費精算、会計、人事の各領域でAIエージェントを開発中だ。例えば経費エージェントは、カード利用を自律的に判断して「カードの利用がありました。領収書を共有いただければ利用報告をしておきます」と提案。ユーザーは領収書を添付するだけで、科目や部門、プロジェクトの類推から申請作成まで自動で行われる。会計エージェントは経理担当者に代わって「経費申請の未承認者にリマインドを送りますか?」と提案し、異常値の自動チェックも行う。

経費精算AIエージェントの利用フロー。カード利用履歴から自律的に処理が必要な項目を検知し、ユーザーに提案。領収書の提出を促し、データを解析して経費科目や部門、プロジェクトなどを自動で類推。ユーザーは内容を確認して承認するだけで申請が完了する。これにより経費精算業務の大幅な効率化が可能になる

 第2の柱は「AIエージェントプラットフォーム」構想だ。他社も含め、さまざまなAIエージェントがマネーフォワードのSaaSと連携する世界を描く。スマートフォンとアプリの関係のように、ユーザーが必要なAIエージェントを選んで使える環境を目指す。「ユーザーフォーカス」「Let's make it!」の姿勢のもと、自社・他社サービス問わずつながり、エコシステムを形成する野心的な構想だ。

 第3の柱は「AXコンサルティング」。中堅・エンタープライズ企業や金融機関向けに、AIを活用したバックオフィス向け業務コンサルティングを提供する。500社以上のバックオフィス業務コンサルティング実績をもとに、「設計する」「実装する」「運用支援する」の3ステップでAI導入を支援する。

 これらの戦略の背景には、マネーフォワードが築いてきた事業基盤がある。同社はこれまでに1664万人以上の個人ユーザー、40万社以上の法人顧客からなるユーザーベースと、13年間にわたる業務データの蓄積を持つ。AIエージェントは単なる技術ではなく、これらの膨大なデータと業務ロジックがあって初めて価値を発揮する。ビジネス部門のプロダクト責任者を務める廣原亜樹執行役員は「AIエージェントがいかに賢く動くかは、AIエージェント自体が使うロジックがいかにそろっているかが重要。このロジックを活用しているから賢い動作ができる。その裏にはデータがある」と説明する。

 同社の既存のSaaSでもAI活用がすでに進んでいる。「クラウド会計 Plus for GPT」は貸借対照表・損益計算書を読み解き、異常値の検出とアドバイスを行う。「クラウド契約」では契約書をAI-OCRで読み取り、企業ごとにカスタマイズした管理項目も含めて台帳化する。前者は台帳作成時間の約53%、後者は書類作成時間の約55%を削減したという実績がある。

 掲げる目標は壮大だ。2028年度までに、カスタマーサポート業務、セールス、開発の各領域で生産性を2倍以上に高め、一人当たり売上高を現在の約1500万円から約3000万円以上へと引き上げる計画だ。辻CEOは「2025年中にAIエージェントを順次リリースし、AIエージェントプラットフォームに参画希望のパートナーを募集開始する」と明言した。先んじて戦略を実行に移すことで、「SaaS is Dead」の時代に新たな生命線を見いだそうとしている。

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