3つの事業の根幹をなすのが人材だ。従業員は約242人で、うちエンジニアが79人を占める。「新卒を20〜40人ほど採用しています。2024年は1次エントリーに1万6000人が応募してくれました。ベンチャー思考が強まっている時代の流れもあると思いますが、ありがたいことです」
特にエンジニアについては、中途採用は少なく新卒採用を基本にしているという。その理由は明快だ。「ヘッドハンティングをすると、年収1000万円など割高になるので、社内の給与体系も変更する必要性に迫られるからです。結局コストが上がり、商品に価格を反映せざるを得なくなります」
そういった背景から、約1億円を投じて1年間ほどの期間もかけてサイバーセキュリティの教育カリキュラムを作り上げた。これが質の高いエンジニアを養成する基礎となっている。
会社の成長に合わせ、組織構造も変革してきた。「約30人で会社を再スタートしました。従業員数が100人を超えた時、事業部制、機能別、マトリックス型など、どのような組織形態にするのか悩み、その結果、事業部別を選択しました。事業部長の下に、さらにマーケティングやセールスを置き、一種のカンパニー制のような形にしたのです。加えて部長、課長、係長の評価、給与の反映のさせ方など仕組みも整えました」
今は、さらに事業規模が大きくなり、300人になろうかというレベル。熊谷社長も、全員を把握するのが困難になるほどの規模に成長した。
「現状の課題は、次の組織設計をどうするかです。組織を全て作り変える必要がある段階にきていると思います」と語る。ある一定のスキルセットを明確にした上で「これをクリアしないと昇進できませんという仕組みを作らないと、大企業のようにシステマチックな組織としての成長ができないと考えています」
ここまで前へ、前へと突き進む熊谷社長の姿勢は、以前、すい臓がんと診断され余命3カ月と宣告を受けたことに源流がある。死生観が変化したと話す。
「民事再生法の適用から1年ぐらいまでは必死でした。本を数多く読み、そこには『企業には社会貢献が必要』と書かれ、その通りだと思いつつも、生き残るには『数字』が大事だと考えていました。しかし余命宣告後は、社会貢献の意味が理解できるようになりました。いつか死ぬのなら、数字よりも困っている人をどれだけ助けられるのか。そこに貢献したいと思えるようになったのです」
あらためて精密検査をしたところ、良性だったのは幸いだった。「今でこそ笑い話になりますが、今でも定期健診はしています」
どの経営者も社会貢献の重要性は分かっている。だが、どれだけの企業が本気で取り組んでいるのか。熊谷社長は心の底から社会に貢献しようとしていて、この姿勢は、いずれ市場から大きな評価を受け事業拡大につなげられそうだ。
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