HR Design +

日立「モノづくり実習」に潜入! 新人データサイエンティストの製造現場「奮闘記」後編【現場編】(2/2 ページ)

» 2025年04月24日 07時00分 公開
前のページへ 1|2       

水戸事業所のモノづくり実習事例

 2人目が、同じく2024年入社の酒井俊樹さんだ。酒井さんは大学時代、統計学やデータサイエンスを中心に学び、特に空間データ解析を専門にしていた。国際学会や国内学会の発表経験も豊富だ。

 酒井さんが所属していた学部は文理融合の学部で、理系分野だけでなく、芸術や文学といった文系分野も幅広く学べる環境だった。その学びの過程で、「暗黙知」と呼ばれる現場のノウハウの可視化やデータ化の取り組み、それによる新たな価値創出に魅力を感じるようになったという。

 「自分がデータサイエンティストとしてやりたいことができる企業を探していたら、『IT×OT×プロダクト』を掲げる日立と出会いました。この理念は、自分のやりたいことをそのまま体現していると感じ、志望しました」(酒井さん)

 酒井さんのモノづくり実習の配属先は、茨城県ひたちなか市にある、日立ビルシステムの水戸事業所だった。水戸事業所(水戸工場)は1940年設立で、1世紀近い歴史がある。同社の水戸事業所では、エレベーターの研究開発や、制御する電子基板などを製造している。

酒井さんのモノづくり実習の配属先は、日立ビルシステムの水戸事業所だった

 酒井さんは1月から3月末までの3カ月で、大きく2つの課題に取り組んだ。1つ目は、電子基板のはんだ溶接部分同士がくっついてしまう「ブリッジ」という現象をいかに減らすかという課題だ。2つ目が「チョコ停」と呼ばれる、基板へのパーツ取り付け時に機器が短時間停止するトラブルを、いかにして減らすかという課題である。

日本事業統括本部 生産本部生産技術部の樽井久明主任技師(左)と2024年入社の酒井俊樹さん

データ活用で現場に新しい気付きをもたらす

 まず、ブリッジの課題では、ハンダ付け工程における不良要因を特定するため、データ分析を駆使して新たな視点を提供した。現場ではそれまで、不良原因を特定する際に「どの部品が悪いのか」というアプローチが主流だった。しかし酒井さんは、同じ部品でも配置場所によって不良率が異なることを突き止め、部品の配置や設計に問題がある可能性を指摘した。

ブリッジの課題では、ハンダ付け工程における不良要因を特定するため、データ分析を駆使して新たな視点を提供した

 2つ目のチョコ停の課題では、生産実績データが膨大かつ、統一されていない形式で存在していたため、分析可能な形に標準化することから着手した。月に約2万枚生成される生産ファイルを統合・集計するための仕組みをプログラミングで構築し、データ分析の基盤を整えた。

チョコ停の課題では、生産実績データが膨大かつ、統一されていない形式で存在していたため、分析可能な形に標準化することから着手した

 酒井さんの実習を担当する、同社日本事業統括本部 生産本部生産技術部の樽井久明主任技師は、「非常に理解が早く、教えた内容を的確に吸収してくれる。データの結びつきや分析の方向性について提案してもらえてとても助かっている」と評価する。

 当初は課題となるテーマが2つあり、3カ月間で解決するのは厳しいだろうと思っていたという。ところがハンダのブリッジの課題は3月上旬時点でほとんど終わっており、現在はチョコ停の課題に移っているという。

 「チョコ停の課題を始めて1週間ほどで全体的な方向性は見えてきています。実習期間内に終わらない可能性もありますが、それ以降も引き継いで分析できる形にしてもらえているので、あとはわれわれが取り組みます。酒井さんが所属元に戻って以降も、同じ日立グループですから、分からない点があっても気軽に聞けるのが心強いですね」(樽井主任技師)

若手社員と製造現場双方の相乗効果

 モノづくり実習の特徴は、実習した若手データサイエンティストと、製造現場の双方にとって大きな相乗効果を生んでいる点だろう。新入社員は大学では扱えなかった生身の現場のデータを扱い、時にはヒアリングや紙資料のデジタル化などを実施して、データとして扱える形式にする。そしてそこから現場の実情に即した形で、業務改善の提案をしていく。

 一方で製造現場側も、長年の懸案だった課題解決が一気に進み、時には現場のDXにつながる場合も珍しくない。そしてそのつながりも一過性のものではなく、同じ日立グループ社員として継続的な関係性になりえる。DXの成否では、継続的な取り組みになるかどうかがカギになると言われており、その点でもモノづくり実習で得た現場とデータサイエンティストの接点は大きいといえるだろう。

 モノづくり実習がうまくいっている背景には、現場の主任技師クラスのベテラン指導員が新人データサイエンティストをサポートしている体制も大きい。これにより、安全性や品質へのリスクを最小限に抑えつつ、新人が主体的に課題解決へ取り組める仕組みを構築しているのだ。新人自身が積極的にコミュニケーションを図り、現場作業者と信頼関係を築くことで、生産性向上や効率化につながる提案も可能となっている。

 モノづくり実習は、データサイエンティストとしての成長だけでなく、製造現場のDX推進にも貢献している。この方法は日立に限らず、日本の製造現場のDXに活用できるやり方で、他のメーカーにも広げられる取り組みといえそうだ。

モノづくり実習は、データサイエンティストとしての成長だけでなく、製造現場のDX推進にも貢献している
前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR